2-44 宿敵
迷路のようなエリアEを拙い記憶を元に大通りへと向かって走る。
ギルもロロもちらちらと後ろを確認するが、見えるのは赤く染まった教会のみ。
めっさ燃えてるがな。
「何よその口調」
「・・・・・・・・・なんでもない」
どうやら口に出ていたようで、ロロにツッコミをくらった。
ナノちゃんから聞いた話によると聖職者的には結構大事な建物だったみたいだが・・・・・・・・・いいのだろうか。
といっても戻って消火活動をしたとしても全焼するのは目に見えているし、だいたい特級冒険者に近づいてはいけないという格言がある。
その心は戦闘中の特級冒険者の殆どは広域を殲滅する方法を持っているからである。
このことに因んで特級冒険者は街中で戦ってはいけない。
・・・・・・・・・あれ?
ナノちゃん、戦ってたよな・・・・・・・・・いいのだろうか?
よく考えたら処罰されるんじゃ
「ナノちゃんは大丈夫か?」
「何よ。心配しても仕方ないでしょ。私達は足手まといなんだから」
いや、そうじゃなくて。
そう言いかけて、口を閉ざす。
言ったところでどうしようもないのだ。
「とりあえず俺達は衛兵にこの事を伝・・・・・・・・・!?」
視界に一瞬だけ黒い影が横切ったのが見えて足を止める。
「・・・・・・・・・」
ロロも気付いたのか周囲を警戒するように構えている。
「・・・・・・・・・」
来るなら、来い。
「あれ?」
どうしてあんなところにギルっちとロロっちがいたんだろうか。
・・・・・・・・・デート?
「こんな廃墟でデートなんて、ムードが・・・・・・・・・・いや、案外誰もいないから燃え上がる、のかしらん?」
まぁどうでもいいか。
そうティアマトは結論付けてファルが言っていた燃えている建物を目指す。
ティアマトの姿は少女趣味、というより一歩間違えればゴスロリの魔法少女服。
彼女は今、空を飛んでいた。
「一応認識阻害魔法を使ってるけど、魔法使い達にはどれだけ効果があるから分からないからねぇ」
だから出来るだけ低く飛ばなければならない。
もちろん地上を走るという選択肢もあったのだが、出来るならこんな格好を知人には知られたくない。
もし地上を走っていたらギルとロロに遭遇していたであろうから、ある意味決断は正しかったといえる。
「ようやく見つけた。最後のアカシア・・・・・・・・・」
燃え行く協会に確かに因縁の敵の存在を感じる。
ファルは確かに自身に協力してくれた。
ならばあとは・・・・・・・・・
「穢れを払うだけ!」
その頃ナノは草薙を振り下ろした格好のまま動かずに思案していた。
確かに自分はアカシアを切り裂いたはず。
致命傷は与えられなくてもダメージは確実に与えられた・・・・・・・・・はずだった。
「・・・・・・・・・なぜ?」
目の前に倒れているのはグールと呼ばれるアカシアの眷族。
斬られたはずのアカシアはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ教会の十字架の上に立っていた。
「この世界ではオーディンが信仰されている。にも関わらずその奇跡を使えないようだが、私は違う。
我が神は私を見捨ててない。アザトースは我を救い給う!」
「・・・・・・・・・別の魔法。別の技術」
つまるところ、渡り神───異世界からの来訪者にこの世界の理は通用しないということか。
ならば、とナノは頭の中で今の攻撃をどうやって逃れたかを考える。
確かに自分は魔法障壁を切り裂いてアカシアに攻撃を加えた。
が、実際に切り裂いたのはアカシアの眷属のグール。
考えられる可能性としては斬られる瞬間にグールと入れ替わった。
もしくは最初から戦っていたのはグールで、アカシアは何かしらの手段でグールの戦力を底上げしていた。
いや・・・・・・・・・これは
「人に囚われている神の御使いよ」
「私の糧となるがいい」
「何心配することはない」
「その力は我らが神、アザトースに捧げられる」
「神にその命を返せるのだ」
「これ程光栄なことはあるまいて」
自身を囲うように何人ものアカシアが現れる。
口々に勝手な事を言うが、それに反応する余裕がナノにはない。
甘く、見すぎた。
異世界の来訪者を、未知の魔法技術を持つ者を。
そんな考えに同調するかのように纏っている炎の勢いが僅かに衰える。
間違いない、このままだと確実に負ける。
「・・・・・・・・・」
もしアカシアがナノのことを油断していれば話は違っただろう。
が、神の御使いを相手にするアカシアに油断は欠片も存在しない。
であるならば退却が一番確実なのだが、エリアEを大火事で焼き尽くすわけにはいかない。
イグニッション状態であるならば音速を超えることも可能なのだが、火事の大元だ。
草薙を通した身体能力ではアカシアを撒けるかは微妙である。
これがもう片方の身体ならば話は違ったのだが、この身体ではあまり力を出せない。
だからこの神剣である草薙の剣で力を上げていたのだが・・・・・・・・・それすら通用しない相手なのだ。
ならば・・・・・・・・・彼女が来るまで時間稼ぎするのが妥当だろう。
規格外には規格外をぶつけるのが一番だ。
「・・・・・・・・・『万物の王』の信仰者」
「・・・・・・・・・?何故それを知っている。神の御使いとはいえ、異世界の情報、その中の偉大なる神の名を知覚できるはずがない」
「・・・・・・・・・」
「神の御使いよ。ひょっとしたら君は別世界の生まれなのではないのかね?」
その問いにナノは答えない。
教会には静かに、彼女の身体から生まれでる炎のバチバチとした音が鳴り響く。
無言を肯定と見たのかアカシアはそのまま問い続ける。
「であるならば君は・・・・・・・・・クトゥグアではないのかね?」
クトゥグア───アザトースに仕えるナイアルラトホテップと敵対する炎の化身。
炎の精の王。
「つまり君はアザトースに仕える私には協力できない、と?
しかしならば疑問が残る。クトゥグアほどの力を持つものが矮小な人間に何故協力を・・・・・・・・・っ!?」
その時、一人喋っていた十字架の上に立っていたアカシアが表情を変えて教会の入り口へと身を投げた。
十字架から離れた瞬間にそこへ訪れたのは容赦のない砲撃。
黒い、黒い光線の嵐。
「なるほど。時間稼ぎであったか」
その懐かしい魔力を感じ、ナノが何を考えてあんな発言をしたのか理解した。
もちろん彼女が炎の精霊王であることを否定する気はなかったが、それにしては気になることがあったのだ。
クトゥグアは炎の化身そのもの。
ならば剣で戦うなど、無意味でしかない。
『生ける炎』であるクトゥグアは身体そのものが武器なのだから。
つまり何かしらの理由で弱っているか、ただのブラフか。
いやそんなことはどうでもいい。
そう、来てしまったのだ彼女が。
アカシアにとっての怨敵、そして天敵が。
「さて魔法少女ティア、穢れを払うかな」
ギルもロロもちらちらと後ろを確認するが、見えるのは赤く染まった教会のみ。
めっさ燃えてるがな。
「何よその口調」
「・・・・・・・・・なんでもない」
どうやら口に出ていたようで、ロロにツッコミをくらった。
ナノちゃんから聞いた話によると聖職者的には結構大事な建物だったみたいだが・・・・・・・・・いいのだろうか。
といっても戻って消火活動をしたとしても全焼するのは目に見えているし、だいたい特級冒険者に近づいてはいけないという格言がある。
その心は戦闘中の特級冒険者の殆どは広域を殲滅する方法を持っているからである。
このことに因んで特級冒険者は街中で戦ってはいけない。
・・・・・・・・・あれ?
ナノちゃん、戦ってたよな・・・・・・・・・いいのだろうか?
よく考えたら処罰されるんじゃ
「ナノちゃんは大丈夫か?」
「何よ。心配しても仕方ないでしょ。私達は足手まといなんだから」
いや、そうじゃなくて。
そう言いかけて、口を閉ざす。
言ったところでどうしようもないのだ。
「とりあえず俺達は衛兵にこの事を伝・・・・・・・・・!?」
視界に一瞬だけ黒い影が横切ったのが見えて足を止める。
「・・・・・・・・・」
ロロも気付いたのか周囲を警戒するように構えている。
「・・・・・・・・・」
来るなら、来い。
「あれ?」
どうしてあんなところにギルっちとロロっちがいたんだろうか。
・・・・・・・・・デート?
「こんな廃墟でデートなんて、ムードが・・・・・・・・・・いや、案外誰もいないから燃え上がる、のかしらん?」
まぁどうでもいいか。
そうティアマトは結論付けてファルが言っていた燃えている建物を目指す。
ティアマトの姿は少女趣味、というより一歩間違えればゴスロリの魔法少女服。
彼女は今、空を飛んでいた。
「一応認識阻害魔法を使ってるけど、魔法使い達にはどれだけ効果があるから分からないからねぇ」
だから出来るだけ低く飛ばなければならない。
もちろん地上を走るという選択肢もあったのだが、出来るならこんな格好を知人には知られたくない。
もし地上を走っていたらギルとロロに遭遇していたであろうから、ある意味決断は正しかったといえる。
「ようやく見つけた。最後のアカシア・・・・・・・・・」
燃え行く協会に確かに因縁の敵の存在を感じる。
ファルは確かに自身に協力してくれた。
ならばあとは・・・・・・・・・
「穢れを払うだけ!」
その頃ナノは草薙を振り下ろした格好のまま動かずに思案していた。
確かに自分はアカシアを切り裂いたはず。
致命傷は与えられなくてもダメージは確実に与えられた・・・・・・・・・はずだった。
「・・・・・・・・・なぜ?」
目の前に倒れているのはグールと呼ばれるアカシアの眷族。
斬られたはずのアカシアはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ教会の十字架の上に立っていた。
「この世界ではオーディンが信仰されている。にも関わらずその奇跡を使えないようだが、私は違う。
我が神は私を見捨ててない。アザトースは我を救い給う!」
「・・・・・・・・・別の魔法。別の技術」
つまるところ、渡り神───異世界からの来訪者にこの世界の理は通用しないということか。
ならば、とナノは頭の中で今の攻撃をどうやって逃れたかを考える。
確かに自分は魔法障壁を切り裂いてアカシアに攻撃を加えた。
が、実際に切り裂いたのはアカシアの眷属のグール。
考えられる可能性としては斬られる瞬間にグールと入れ替わった。
もしくは最初から戦っていたのはグールで、アカシアは何かしらの手段でグールの戦力を底上げしていた。
いや・・・・・・・・・これは
「人に囚われている神の御使いよ」
「私の糧となるがいい」
「何心配することはない」
「その力は我らが神、アザトースに捧げられる」
「神にその命を返せるのだ」
「これ程光栄なことはあるまいて」
自身を囲うように何人ものアカシアが現れる。
口々に勝手な事を言うが、それに反応する余裕がナノにはない。
甘く、見すぎた。
異世界の来訪者を、未知の魔法技術を持つ者を。
そんな考えに同調するかのように纏っている炎の勢いが僅かに衰える。
間違いない、このままだと確実に負ける。
「・・・・・・・・・」
もしアカシアがナノのことを油断していれば話は違っただろう。
が、神の御使いを相手にするアカシアに油断は欠片も存在しない。
であるならば退却が一番確実なのだが、エリアEを大火事で焼き尽くすわけにはいかない。
イグニッション状態であるならば音速を超えることも可能なのだが、火事の大元だ。
草薙を通した身体能力ではアカシアを撒けるかは微妙である。
これがもう片方の身体ならば話は違ったのだが、この身体ではあまり力を出せない。
だからこの神剣である草薙の剣で力を上げていたのだが・・・・・・・・・それすら通用しない相手なのだ。
ならば・・・・・・・・・彼女が来るまで時間稼ぎするのが妥当だろう。
規格外には規格外をぶつけるのが一番だ。
「・・・・・・・・・『万物の王』の信仰者」
「・・・・・・・・・?何故それを知っている。神の御使いとはいえ、異世界の情報、その中の偉大なる神の名を知覚できるはずがない」
「・・・・・・・・・」
「神の御使いよ。ひょっとしたら君は別世界の生まれなのではないのかね?」
その問いにナノは答えない。
教会には静かに、彼女の身体から生まれでる炎のバチバチとした音が鳴り響く。
無言を肯定と見たのかアカシアはそのまま問い続ける。
「であるならば君は・・・・・・・・・クトゥグアではないのかね?」
クトゥグア───アザトースに仕えるナイアルラトホテップと敵対する炎の化身。
炎の精の王。
「つまり君はアザトースに仕える私には協力できない、と?
しかしならば疑問が残る。クトゥグアほどの力を持つものが矮小な人間に何故協力を・・・・・・・・・っ!?」
その時、一人喋っていた十字架の上に立っていたアカシアが表情を変えて教会の入り口へと身を投げた。
十字架から離れた瞬間にそこへ訪れたのは容赦のない砲撃。
黒い、黒い光線の嵐。
「なるほど。時間稼ぎであったか」
その懐かしい魔力を感じ、ナノが何を考えてあんな発言をしたのか理解した。
もちろん彼女が炎の精霊王であることを否定する気はなかったが、それにしては気になることがあったのだ。
クトゥグアは炎の化身そのもの。
ならば剣で戦うなど、無意味でしかない。
『生ける炎』であるクトゥグアは身体そのものが武器なのだから。
つまり何かしらの理由で弱っているか、ただのブラフか。
いやそんなことはどうでもいい。
そう、来てしまったのだ彼女が。
アカシアにとっての怨敵、そして天敵が。
「さて魔法少女ティア、穢れを払うかな」
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