2-39 戦士の霧
見張り・・・・・・いつもなら「お姉さま」と言いながらロロの後ろを歩いていたジーナはどこへいったのか。
腕輪の振動で交代の時間になったことを知ったギルが最初に見たのはそんなジーナの不機嫌な顔だった。
ロロはというと、焚き火の光で手元を照らしながらファッション雑誌らしきものを読んでいる。
それでいいのかとつっこみたいが、言ったところで無駄だろうと思いそのまま声をかけて入れ替わった。
ロロ達がテントに入っていったあと、打撃音のような音と共にアレスがテントから放り出されたが、概ね予想通りである。
「お・・・・・・鬼や」
ギルとて一人で見張りをする気はないのでアレスを起こそうとしたのだが、まったくおきる気配はなかった。
仕方ないので一人で見張りをしようと思ったのだが・・・・・・・・・女性陣が叩き起こしたようだ。
「アレスが悪いだろ」
「何で起こしてくれへんかったんや!?」
「いや、起こしたけどアレスが起きなかったんだろ。自分の面倒は自分で見ろ」
と言ってもギル自身も毎日ファルに起こしてもらっているのだが、まったく気付いていない。
「はぁ・・・・・・優しく起こしてくれる彼女、できんかなぁ」
「妄想はいいからさっさとこっちに座れ」
いつまでテントの前で寝そべってる気だ、そう睨みつけるとアレスは仕方なさそうに立ち上がった。
「へいへい」
ズルズルと芋虫のようにこちらに這い寄ってくるその姿に、
焚き火にくべてやろうかと一瞬思ってしまうがこんなのでも仲間だ。
例えスケベでマヌケでいいところが一つもなくても・・・・・・・・・くべようか。
「ちょっ、待ちや!なんでワイを持ち上げ・・・・・・・・って、なんで火の前に立つんや!?」
「いや、焼こうかと思って」
「いらんわボケ!」
ギルは暴れはじめたアレスを背後に放り投げ、腕輪の中から剣を取り出した。
そして手元に置くと、腕輪の中からチーズを取り出した。
「もぐもぐ・・・・・・いるか?」
「いらんわ。チーズなんてもう食い飽きたわ」
「ふぅん?ということは崑崙にでもすんでたのか?」
チーズの産地といったら崑崙であり、ギルの食べているそれも崑崙の品である。
ファル曰く名産品らしいのだが、たまたま見かけたので買っただけで、別に好物というわけではない。
「んなわけないやろ。ワイはアインブロックに住んでたんや」
「アイ・・・・・・・・・?」
「アインブロックや。知らんか?」
アインブロック・・・・・・・・・ギルはその名前に聞き覚えがなかった。
詳しく聞いてみようとしたが「面倒や」の一言で断念。
今度ファルに聞いてみようと決意し、腕輪からコーヒーを取り出す。
「よっと」
カップに軽く魔力を流すと、冷えていたコーヒーがしばらくして沸騰する。
魔法機械、その知識を持つものは自動魔法砲台等の戦闘用だけでなくこんな日用品も作っている。
これもその中の一つで、たまたま市場で見かけたものをギルが衝動買いしたものである。
鼻歌混じりで家に帰り、ミルクをホットミルクに変えようとしたが壊れていてファルに治してもらったのはいい思い出だ。
「へぇ。それ便利そうやな」
「だろ?」
こういった魔法機械は総じて相場が高いのだが、ギルが買ったこれは300zと格安。
一般的な日用品・・・・・・・にしては少し高いが、相場の半分以下なのは間違いないだろう。
その結果壊れていたので、案外安かったのはその辺が理由なのかもしれない。
「ワイのいたところではそんな便利なものなかったからな」
「そんなに田舎なのか?」
「へ?あー・・・・・・・・・そんなことないと思うけど、どうなんやろな」
今や魔法機械はミッドガッツ王国のあらゆる場所へと普及している。
それは200年程前に起こった商人達の反乱の事件によるもので、今や家庭に魔法機械があるのは珍しいことではない。
ギルも含め、仕掛けをまったく理解できなく壊す人も少なくはないが。
「・・・・・・・・・母さん、今頃どうしてるかな」
魔法機械を見てふと思い出すのは母親のこと。
今頃機械音痴の我が母は何をしているのだろうか。
「そういや、ギルはんの父は何してる人なん?」
「死んだ」
「・・・・・・・・・す、すまん」
ズズ、とコーヒーを啜りながらの一言に気まずげに視線を逸らすアレスに首を傾げる。
「何で謝るんだ?」
「へ?」
「珍しいもんでもないだろ。今時片親とか孤児の人なんて」
もっともそれとバフォメットを追う気持ちは別物であるが。
「ま、まぁそやな。んで母親はどうなんや?」
「さぁ?どこにいるんだろうな………」
「は?」
思わずギルを見るアレスだが、その顔には負の感情は見当たらない。
「俺がジュノー出る時にどっかに旅行に行ったみたいで………まぁどっかで元気にしてるんじゃないか?
たまに怪しい薬を作るのはやめて欲しいもんだけどな」
「怪しい薬って何や?」
「・・・・・・・・・聞かないでくれ」
過去様々な騒動の原因となった母のことを思い浮かべると目から汗が出るのは気のせいだろう。
「あれ?」
二人で話していると、何かに気付いたようにギルが声をあげた。
「どないしたん?」
「霧が………」
気付けばギル達のテントを含めて周囲が霧に覆われていることに、二人は気付いた。
森といっても樹海ってほどのものでもないし、雨はここ最近降ってない。
この辺りが特殊な環境なのか?
そう思った時、テントの入り口が勢い開かれた。
「これは………ファルさん」
テントから顔を出したジーナは何かに驚いたように目を見開き、ファルを呼んだ。
「なんだいジーナ?………これは」
ジーナと同様の反応をしてからファルは舌打ちをして叫んだ。
「起きろティアマト、ロロ!囲まれた!」
「おいファル何を言って………」
「ギルは戦闘準備!」
「あ、ああ」
いったい何の剣幕だ、と問う前にファルは焦ったように指示を出していた。
ファルは頭に疑問符を浮かべながらも戦闘準備をする仲間を見つめて、早すぎるとつぶやいた。
誰もいないテントの中、ファルは荷物を急いで腕輪に放り込みながら考えていた。
今はまだ5月の後半………こんなにも早くこの現象が起こるとは思わなかった。
「『ミストオブアインヘリヤル』………か。どうだ?」
ファルが呟いた一言に反応するかのように『彼女』は語りかけた。
『イエス。98%の可能性でミストオブアインヘリヤルと断定』
何もない虚空から響く声、その結果にファルは忌々しいと思いながらテントを出た。
「・・・・・・・・・早すぎる。何かが干渉している・・・・・・・・・?」
「─────!?────!」
「ちっ、もう始まったか!」
腕輪の振動で交代の時間になったことを知ったギルが最初に見たのはそんなジーナの不機嫌な顔だった。
ロロはというと、焚き火の光で手元を照らしながらファッション雑誌らしきものを読んでいる。
それでいいのかとつっこみたいが、言ったところで無駄だろうと思いそのまま声をかけて入れ替わった。
ロロ達がテントに入っていったあと、打撃音のような音と共にアレスがテントから放り出されたが、概ね予想通りである。
「お・・・・・・鬼や」
ギルとて一人で見張りをする気はないのでアレスを起こそうとしたのだが、まったくおきる気配はなかった。
仕方ないので一人で見張りをしようと思ったのだが・・・・・・・・・女性陣が叩き起こしたようだ。
「アレスが悪いだろ」
「何で起こしてくれへんかったんや!?」
「いや、起こしたけどアレスが起きなかったんだろ。自分の面倒は自分で見ろ」
と言ってもギル自身も毎日ファルに起こしてもらっているのだが、まったく気付いていない。
「はぁ・・・・・・優しく起こしてくれる彼女、できんかなぁ」
「妄想はいいからさっさとこっちに座れ」
いつまでテントの前で寝そべってる気だ、そう睨みつけるとアレスは仕方なさそうに立ち上がった。
「へいへい」
ズルズルと芋虫のようにこちらに這い寄ってくるその姿に、
焚き火にくべてやろうかと一瞬思ってしまうがこんなのでも仲間だ。
例えスケベでマヌケでいいところが一つもなくても・・・・・・・・・くべようか。
「ちょっ、待ちや!なんでワイを持ち上げ・・・・・・・・って、なんで火の前に立つんや!?」
「いや、焼こうかと思って」
「いらんわボケ!」
ギルは暴れはじめたアレスを背後に放り投げ、腕輪の中から剣を取り出した。
そして手元に置くと、腕輪の中からチーズを取り出した。
「もぐもぐ・・・・・・いるか?」
「いらんわ。チーズなんてもう食い飽きたわ」
「ふぅん?ということは崑崙にでもすんでたのか?」
チーズの産地といったら崑崙であり、ギルの食べているそれも崑崙の品である。
ファル曰く名産品らしいのだが、たまたま見かけたので買っただけで、別に好物というわけではない。
「んなわけないやろ。ワイはアインブロックに住んでたんや」
「アイ・・・・・・・・・?」
「アインブロックや。知らんか?」
アインブロック・・・・・・・・・ギルはその名前に聞き覚えがなかった。
詳しく聞いてみようとしたが「面倒や」の一言で断念。
今度ファルに聞いてみようと決意し、腕輪からコーヒーを取り出す。
「よっと」
カップに軽く魔力を流すと、冷えていたコーヒーがしばらくして沸騰する。
魔法機械、その知識を持つものは自動魔法砲台等の戦闘用だけでなくこんな日用品も作っている。
これもその中の一つで、たまたま市場で見かけたものをギルが衝動買いしたものである。
鼻歌混じりで家に帰り、ミルクをホットミルクに変えようとしたが壊れていてファルに治してもらったのはいい思い出だ。
「へぇ。それ便利そうやな」
「だろ?」
こういった魔法機械は総じて相場が高いのだが、ギルが買ったこれは300zと格安。
一般的な日用品・・・・・・・にしては少し高いが、相場の半分以下なのは間違いないだろう。
その結果壊れていたので、案外安かったのはその辺が理由なのかもしれない。
「ワイのいたところではそんな便利なものなかったからな」
「そんなに田舎なのか?」
「へ?あー・・・・・・・・・そんなことないと思うけど、どうなんやろな」
今や魔法機械はミッドガッツ王国のあらゆる場所へと普及している。
それは200年程前に起こった商人達の反乱の事件によるもので、今や家庭に魔法機械があるのは珍しいことではない。
ギルも含め、仕掛けをまったく理解できなく壊す人も少なくはないが。
「・・・・・・・・・母さん、今頃どうしてるかな」
魔法機械を見てふと思い出すのは母親のこと。
今頃機械音痴の我が母は何をしているのだろうか。
「そういや、ギルはんの父は何してる人なん?」
「死んだ」
「・・・・・・・・・す、すまん」
ズズ、とコーヒーを啜りながらの一言に気まずげに視線を逸らすアレスに首を傾げる。
「何で謝るんだ?」
「へ?」
「珍しいもんでもないだろ。今時片親とか孤児の人なんて」
もっともそれとバフォメットを追う気持ちは別物であるが。
「ま、まぁそやな。んで母親はどうなんや?」
「さぁ?どこにいるんだろうな………」
「は?」
思わずギルを見るアレスだが、その顔には負の感情は見当たらない。
「俺がジュノー出る時にどっかに旅行に行ったみたいで………まぁどっかで元気にしてるんじゃないか?
たまに怪しい薬を作るのはやめて欲しいもんだけどな」
「怪しい薬って何や?」
「・・・・・・・・・聞かないでくれ」
過去様々な騒動の原因となった母のことを思い浮かべると目から汗が出るのは気のせいだろう。
「あれ?」
二人で話していると、何かに気付いたようにギルが声をあげた。
「どないしたん?」
「霧が………」
気付けばギル達のテントを含めて周囲が霧に覆われていることに、二人は気付いた。
森といっても樹海ってほどのものでもないし、雨はここ最近降ってない。
この辺りが特殊な環境なのか?
そう思った時、テントの入り口が勢い開かれた。
「これは………ファルさん」
テントから顔を出したジーナは何かに驚いたように目を見開き、ファルを呼んだ。
「なんだいジーナ?………これは」
ジーナと同様の反応をしてからファルは舌打ちをして叫んだ。
「起きろティアマト、ロロ!囲まれた!」
「おいファル何を言って………」
「ギルは戦闘準備!」
「あ、ああ」
いったい何の剣幕だ、と問う前にファルは焦ったように指示を出していた。
ファルは頭に疑問符を浮かべながらも戦闘準備をする仲間を見つめて、早すぎるとつぶやいた。
誰もいないテントの中、ファルは荷物を急いで腕輪に放り込みながら考えていた。
今はまだ5月の後半………こんなにも早くこの現象が起こるとは思わなかった。
「『ミストオブアインヘリヤル』………か。どうだ?」
ファルが呟いた一言に反応するかのように『彼女』は語りかけた。
『イエス。98%の可能性でミストオブアインヘリヤルと断定』
何もない虚空から響く声、その結果にファルは忌々しいと思いながらテントを出た。
「・・・・・・・・・早すぎる。何かが干渉している・・・・・・・・・?」
「─────!?────!」
「ちっ、もう始まったか!」
スポンサーサイト