2-37 目的
寝ずの番、というか見張り中でティアマトは欠伸をかみ殺していた。
中央の炎の向こうにいるファルという青年は暇そうに首からぶら下げている古ぼけた鍵を弄っている。
番というもの全般が二人で行われるのにはそれなりの理由があり、それは一人一人に役割があるからだ。
片方が報告しなければならないが、その間番がまったくいなくなるのも問題なわけで。
つまるところ、寝ずの番はペアで行われるものであることに異論はないのだ。
しかしティアマトはこのアミダクジで決められた結果に冷や汗をかいていた。
交代までたった2時間という短い時間だが、それでもこの青年とだけは二人きりにはなりたくなかった。
それにティアマトにとってこの沈黙は辛いものだ。
不謹慎だがゴブリンが襲撃してくれたほうが気楽なものだった。
「ティアマト」
「ふぇ?あたい?」
「他に誰がいるの?」
そうだ、と言わんばかりに声をあげたファルに首を傾げ、警戒しつつ答える。
「何?」
「こんな機会でもないと話せないと思ったからね。少しズルをさせてもらったよ」
「ズル・・・・・・・・・?」
いったい何の話だろう、そう思い問いかけようとしファルの言葉に息を飲んだ。
「驚いたよ。こんな世界に渡り神・・・・・・・・・いや、異世界人が訪れるなんてね」
「・・・・・・・・・!?」
なんで、どうして。
そんな疑問が頭に浮かび、瞬時に杖を出現させる。
真横に置いておいた今回の狩りにおいて使った剣を蹴り飛ばし、構えた。
「あんた・・・・・・・・・何者?」
「僕?そんなのどうでもいいんじゃない?別に君をどうこうしようって話じゃないから」
「・・・・・・・・・それで話って何よ?」
杖を向けられても動く様子のないファルだが、それでも警戒を解くことなく構えたままティアマトは問うた。
微かに微笑んだファルは何の澱みもなく提案した。
「こんな世界に来るくらいだから君にも目的はあるんだろうね。
簡単な取引さ。僕のことを手伝う代わりに、僕も君のことを手伝う。簡単でしょ?」
「無理よ。私が追っているのはこの世界の住民じゃ勝てないわ。足手まといよ」
「それがそうでもないんだな。君が追っているのは・・・・・・・・・『これ』でしょ?」
ファルが握った手を差し出すように開いた。
「な!?あんた・・・・・・・・・死にたいの!?というかあんたが倒したの!?」
「そうだよ。暴れん坊だけど抑えられないことはないし。これでわかった?」
「・・・・・・・・・そうね。あんたが戦力になるってことは分かったわ。
だけど、あんたはあたいに何をさせたいの?」
確かにファルが戦力になる、あるいは彼の交友関係で戦力になる人物がいることは確実だろう。
ティアマトにとって一人で出来ないことはないのだから好条件じゃない限りこの提案を受ける気はなかった。
しかし
「クリスマス・・・・・・・・・12月25日の大異変の時、ちょっとしたことをして欲しい。
簡単な仕事なんだけどこの世界の。いや、僕の知り合いには頼めないことなんだ」
「・・・・・・・・・大異変?」
「君も気付いてるんじゃない?この世界の歪みを。違和感を」
「・・・・・・・・・?」
「?ああ、そうか。魔法の体系が違うから異世界人といえど、分からなくても仕方ないか。
実はこの世界はね」
近づいてきたファルにビクッと反応して攻撃しそうになるが、何とか堪える。
そして耳元でファルが・・・・・・・・・この世界の秘密を呟いた。
「・・・・・・・・・え?」
離れていった彼だが、未だにその言葉は耳から離れない。
今、彼は何て言った?
「ちょっと待ちなさい!ありえないわ、そんなこと!」
「だよねぇ。馬鹿馬鹿しいよね」
思わず叫び声のようなものを上げたティアマトに対してファルは苦笑い。
そのすました反応に抗議したくなったが今はそんな時ではない。
「そんな状態ならこの世界はとっくに滅びているはずよ!?」
「まぁね。でも今は何とかなっている。そしてそれが大異変を境に何ともならなくなる」
「そもそも大異変って何よ?あなた、何を知ってるのよ?」
「・・・・・・・・・」
彼はニヤリと笑い、呟いた。
「偽りの神様が作られ、世界は救われる」
彼の言葉は、この世界での私の物語の始まりだった。
中央の炎の向こうにいるファルという青年は暇そうに首からぶら下げている古ぼけた鍵を弄っている。
番というもの全般が二人で行われるのにはそれなりの理由があり、それは一人一人に役割があるからだ。
片方が報告しなければならないが、その間番がまったくいなくなるのも問題なわけで。
つまるところ、寝ずの番はペアで行われるものであることに異論はないのだ。
しかしティアマトはこのアミダクジで決められた結果に冷や汗をかいていた。
交代までたった2時間という短い時間だが、それでもこの青年とだけは二人きりにはなりたくなかった。
それにティアマトにとってこの沈黙は辛いものだ。
不謹慎だがゴブリンが襲撃してくれたほうが気楽なものだった。
「ティアマト」
「ふぇ?あたい?」
「他に誰がいるの?」
そうだ、と言わんばかりに声をあげたファルに首を傾げ、警戒しつつ答える。
「何?」
「こんな機会でもないと話せないと思ったからね。少しズルをさせてもらったよ」
「ズル・・・・・・・・・?」
いったい何の話だろう、そう思い問いかけようとしファルの言葉に息を飲んだ。
「驚いたよ。こんな世界に渡り神・・・・・・・・・いや、異世界人が訪れるなんてね」
「・・・・・・・・・!?」
なんで、どうして。
そんな疑問が頭に浮かび、瞬時に杖を出現させる。
真横に置いておいた今回の狩りにおいて使った剣を蹴り飛ばし、構えた。
「あんた・・・・・・・・・何者?」
「僕?そんなのどうでもいいんじゃない?別に君をどうこうしようって話じゃないから」
「・・・・・・・・・それで話って何よ?」
杖を向けられても動く様子のないファルだが、それでも警戒を解くことなく構えたままティアマトは問うた。
微かに微笑んだファルは何の澱みもなく提案した。
「こんな世界に来るくらいだから君にも目的はあるんだろうね。
簡単な取引さ。僕のことを手伝う代わりに、僕も君のことを手伝う。簡単でしょ?」
「無理よ。私が追っているのはこの世界の住民じゃ勝てないわ。足手まといよ」
「それがそうでもないんだな。君が追っているのは・・・・・・・・・『これ』でしょ?」
ファルが握った手を差し出すように開いた。
「な!?あんた・・・・・・・・・死にたいの!?というかあんたが倒したの!?」
「そうだよ。暴れん坊だけど抑えられないことはないし。これでわかった?」
「・・・・・・・・・そうね。あんたが戦力になるってことは分かったわ。
だけど、あんたはあたいに何をさせたいの?」
確かにファルが戦力になる、あるいは彼の交友関係で戦力になる人物がいることは確実だろう。
ティアマトにとって一人で出来ないことはないのだから好条件じゃない限りこの提案を受ける気はなかった。
しかし
「クリスマス・・・・・・・・・12月25日の大異変の時、ちょっとしたことをして欲しい。
簡単な仕事なんだけどこの世界の。いや、僕の知り合いには頼めないことなんだ」
「・・・・・・・・・大異変?」
「君も気付いてるんじゃない?この世界の歪みを。違和感を」
「・・・・・・・・・?」
「?ああ、そうか。魔法の体系が違うから異世界人といえど、分からなくても仕方ないか。
実はこの世界はね」
近づいてきたファルにビクッと反応して攻撃しそうになるが、何とか堪える。
そして耳元でファルが・・・・・・・・・この世界の秘密を呟いた。
「・・・・・・・・・え?」
離れていった彼だが、未だにその言葉は耳から離れない。
今、彼は何て言った?
「ちょっと待ちなさい!ありえないわ、そんなこと!」
「だよねぇ。馬鹿馬鹿しいよね」
思わず叫び声のようなものを上げたティアマトに対してファルは苦笑い。
そのすました反応に抗議したくなったが今はそんな時ではない。
「そんな状態ならこの世界はとっくに滅びているはずよ!?」
「まぁね。でも今は何とかなっている。そしてそれが大異変を境に何ともならなくなる」
「そもそも大異変って何よ?あなた、何を知ってるのよ?」
「・・・・・・・・・」
彼はニヤリと笑い、呟いた。
「偽りの神様が作られ、世界は救われる」
彼の言葉は、この世界での私の物語の始まりだった。
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