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2-32 実習初日前編

一年生達が待ちに待った実習の日、校舎は異様に静まり返っていた。
冒険者になる為の大きな一歩目であるこの日は王立学園の生徒にとって人生の中でも重要なイベントであるのは間違いない。
ギルでさえもファルが起こしに行く前から起きていて、中庭で素振りをしていた。
ジーナが窓から中庭で普段やらない自主鍛錬をしている多数の生徒に呆れていたが、
むしろファルとジーナが冷めすぎているだけである。
その証拠にE組の面々は彼らを除きトナ校長が来るのを静かに待っていた。

「・・・・・・・・・」

そういえば、とジーナはある事を思い出してファルを見つめた。
付き合いが長くなければまったく分からないが、心ここにあらずといった様子でファルは本を読んでいた。
・・・・・・・・・・いや、読んでいるように見えて先程からずっとページが捲られていない。
やはりナノちゃんおかえりパーティという名の宴会で振り回されて疲れたのだろうか。
今思ってもあのパーティは恐ろしかった。
聞いた話だがあのトナ校長ですら翌日は二日酔い寝込んでいたらしい。
あのパーティ自体は店を貸切にして行われたが人数は10人かその程度。
にも関わらず翌朝になると裸で地面に倒れている男女が半分──うち3割が白目をむいて痙攣していた──もいた上、
所々に嘔吐物が残留して店内の臭いは最悪。
そのうえいったい何のノリで作ったのかドブのようで何か泡立っている謎の飲み物がテーブルに置かれていた。
早々に隅のほうに避難していたジーナは早くに目覚め、店内の状態に顔を顰めつつ厨房に行くとそこには
先程の謎の飲み物で『ようじょ』とタイルの床に書いたペン太先生が気絶していた。
今思えばガルマー先生を始めとする教師陣が参加を拒否したことがよく分かる。
よく思いだしてみるとパーティ中に厨房のほうから鳴き声が聞こえてきたような・・・・・・・・・。
そして今疲れているファルだが・・・・・・・・・現状を把握した瞬間三角座りで落ち込んでいた。
いったい何をしたのか聞いてみたが、嫌がられたので結局は聞いていない。

「ほけー」

魂が抜けた状態のようなファルであるが、幼馴染を起こしたり朝飯を作るといった日課はこなしていたし大丈夫だろう。
・・・・・・・・・本を読むのはひょっとして日課なのだろうか。

「やっほう皆なの!ぐっどいぶにんぐなの!」

「先生。それは夕方です」

「もうジーナちゃん細かいの。今日は筋肉馬鹿達が待ちに待った実習日なの!
 ゴブリンの討伐に行くけど、準備は大丈夫なの?」

「おう、武器はちゃんと持ってきてるぜ」

「ええ、ちゃんと篭手を持ってきたわ」

「ワイはまぁ自前の持ち歩いてるし」

3人が元気に武器を持っていることを主張するが、それを聞いたティアマトとジーナが小さく首をかしげた。

「えっと・・・・・・・・・武器だけ、ってことわないよな?あたいは他にもちゃんと色々持ってきてるけど」

「私もちゃんと腕輪に入れてきましたが・・・・・・・・・まさか武器以外何も持ってないなんてありませんよね?」

何の話か分からない3人はお互い顔を見合わせ、ギルが代表して聞いてみた。

「なぁ、武器以外って何か必要なのか?」

「なの?討伐場所は歩いて半日かかるから一泊泊まりなの。確かに言ったの」

「確かテスト終わった後にちょちょいと言っただけだからギルっちとか聞いてないかもねぇ・・・・・・・・・」

寝てたし。
そうティアマトが付け加えると、ロロは無言で立ち上がり教室から走り去っていった。
おそらくすぐに準備をして戻ってくることだろう。

「ギルっちとアレスっちは行かなくていいのかい?」

「うん?まぁ消耗品はファルに借りればいいし、
 冒険者なんだから毎日着替えなきゃいけないってわけでもねぇしな」

「そやな」

冒険者というのは実際過酷な職業である。
狩場で呑気に着替えなんてしていて殺されたなんて事例もたまにあり、
さらに風呂なんてものは拠点から離れると当然なく、濡れたタオルで身体を拭く程度だ。
その場合も当たり前だが身の安全は確保しなくてはならず、そんな場所を作ることは難しい現状だ。
冒険者になって最初の嫌な出来事はが血まみれになっても安全を確保できるまで着替えられないことだろう。

「どうせこの剣士の服だろうしなずっと。替えも何着か腕輪に入ってるし」

「ワイはこのだっさいダボダボの商人服やで・・・・・・・・・ごっつ暑いんやけど、色々仕込んでるしなぁ」

二人の言うことは一般市民からすればあれだが、冒険者からすれば当たり前の感覚だった。

「寝袋はどうするのよ?」

「ファルに借りるけど」
「ファルはんに借りるわ」

「いえ、さすがにファルさんも寝袋をいくつも持ってるとは思えないんですが」

「夜番の時に借りれたらそれでいいし、借りれなかったら地面で寝るからどうでもいいぜ」

「そろそろロロちゃんも帰ってくるだろうから、皆準備するの!」」
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