fc2ブログ

1-3『暴走』

「ふふふ・・・・・・・・・真ちゃん。大丈夫だよ。ちゃんと私の力を示してみせるから・・・・・・・・・ふふふふふふふふ」

ひぃ。
そんな短い悲鳴を気合で押さえ込み、完全に気配を断って去っていく足音を聞く。
真の脳裏に浮かぶ一言、どうしてこうなった。
いやたぶんゲームのことを考えすぎて東雲家の当主としての実力を見せ付けることを思いついただけだろう。
よく考えればこういう展開になるのは自明の理で、なんで想定しなかったんだ俺の馬鹿、と真は頭を抱えた。

「・・・・・・・・・にゃ?・・・・・・・・・・・・見つけた♪」

ぞくりと背筋が凍りつき、本能の感じるがままに逃走。
敵に背中を見せて、これでもかというくらいの逃走。
いや、だって夕菜に勝てるわけないし。

「真ちゃん待って!私の実力~」

「違うわっ!不正解だ!」

「きっと正解だよー」

「だから違うというておろうに!」

このお嬢さん、どうしても俺を殴らないと気がすまないのだろうか。
力を誇示する為か、暗器が飛んでこないのは不幸中の幸いだろう。

『ゲシュタルト崩壊!ゲシュタルト崩壊!』

ポケットに入っていた携帯電話が鳴り響き、後ろを気にしつつ耳にあてる。
ちなみにこの着歌は国に裏切られゾンビ化した少女がハンドガンを両手に国家に復讐する深夜アニメのオープニングである。

「なんだよ!?」

『いや、なんだよって言いたいのこっちなんだけど』

明だった。

「うっさい死ね!死にそうなのに電話なんてかけてくんな!」

『は?死ぬって・・・・・・・・・おおげさだろ』

しぃっと!
もういいからお前黙れ!

「教室で何か壊れてるだろ!?夕菜がさっき蹴り飛ばしたあれ!」

『ロッカーがひしゃげてるけど、別にそんなに気にするようなことじゃねぇだろ?
 確かに女性にしては力が強い気がするけど』

「・・・・・・・・・」

一応、手加減はしてくれていたらしい。
なら立ち止まって話せば分かってくれるか?
そう期待を込めて首だけ振り向いてみると

「ふふふふふふ」

「・・・・・・・・・」

うん、無理。







あたし、鷹取梓はキョロキョロと教室を見渡した。
さっきまで夕菜ちゃん、席に座ってたはずなんだけど・・・・・・・・・どこ行ったんでしょう?

「あれー?」

昼休み前の4時限目に登校してきてしかも授業中ブツブツ何かを呟いていたので心配だったのだが。
そういえば数学の授業だったんだけど、先生怯えてましたね・・・・・・・・・。
とにかく礼をして頭を上げたその時には既に夕菜ちゃんはこの教室から消えていた。
真さん絡みでしょうか?
夕菜ちゃんたまにそのことで暴走しますから、本当に心配なんですが・・・・・・・・・。
とにかく夕菜ちゃんが暴走してるなら親友のあたしがちゃんと止めてあげないと!
だよね!と自分を励ますように手をぎゅっと握り締め、真さんの教室へと向か・・・・・・・・・・

「ふふふふふふふ」

「落ち着け夕菜!だから不正解なんだって!」

「大丈夫大丈夫。私にお任せだよ!」

「任せられるか!絶対殴り飛ばす気だろお前!」

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。

「いただきますです」

数秒後、そこには弁当箱を広げて一人食べているあたしがいた。







撒いた・・・・・・・・・だろうか。
とりあえず近くに気配はないが、相手はあの夕菜だ。
安心何かできるはずがない。
とある空き教室の壁に張り付きながら溜息を吐いた。

「・・・・・・・・・どうしよう」

素直に逃げるのも一つの手だが、その場合午後の授業を全てさぼることになる。
そして何より明日も追いかけられる可能性が高い。
となれば何とかして夕菜を倒・・・・・・・・・したらまた明日も狙われるな。
つまり何とか夕菜を正気に戻してお話をする必要があるのだが、どうすればいいだろう。

「かーごーめー、かーごーめー。籠の中の鳥はいついつでやーるー」

・・・・・・・・・あの、夕菜さん?
何でそんなホラーばりの歌を歌いながら私めのことをお探しになっちゃってらっしゃるのでしょうか。
こっそりとドアから顔を出して様子を見てみたいが、そんなことをすれば確実に見付かる。
実際先程からこの辺をウロウロしているのだ。
たぶん勘だろうが、それこそが夕菜の、東雲家の最大の武器。
トン、トン、トトンと不思議なステップを奏でていた足音が去っていく。
真はすぐにドアを開け、忍び足で周囲を伺いながら移動する。
同じ所にい続ければ見付かるのは間違いないわけで・・・・・・・・・

「真ちゃん♪」

「・・・・・・・・・でたぁ!?」

背後から聞こえた声に振り向かず、全力で走る。
すぐに追いかける足音、しかも今度は少しずつ追いついてきている。
・・・・・・・・・あれ、そういえばこの道って

「行き止まり!?」

ブレーキ音を鳴らしつつ振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべる夕菜の姿。

「夕菜落ち着け。お前は勘違いしている」

「大丈夫大丈夫。真ちゃんはちゃんと私の力を実感してね?」

「大丈夫じゃないだろ絶対!?というか話を聞けっ!」

これは不味い。
死ぬか生きるか。
デッドオアアライブ。

「真ちゃん構えて」

あなた、構えたら間違いなく襲い掛かってくるでしょ。
と考えるも構えなくても間違いなく襲われるので、仕方なしに覚悟を決める。
拳は緩めに握り、袖の中から警棒を取り出し伸ばす。
女の子相手になんて酷い、と言われても仕方ないが正直これでも勝率は1%いくかいかないかくらいだろう。
・・・・・・・・・よし!

「さあ来い夕菜ああああ!俺は実は一回殴られただけで死ぬぞおおおお!」








その後、夕方過ぎに真は保健室で目覚めて何事もなく帰っていった。






「あっはっはっはっはっはっ!し、真君!君は僕を殺す気かい!?」

「・・・・・・・・・だから言いたくなかったんだよ」

帰りが遅くなったのでも里枝さんに事情を聞かれ、それを大地が聞いて今に至る。
もちろん里枝さんに話すのは渋ったのだが片手に包丁を持ちながら笑って聞かれると言わざるを得ない。
料理中だったみたいだけど・・・・・・・・・美人がやると凄く怖いです。

「お兄ちゃん大丈夫?」

「夕菜も手加減してたみたいだからね。鈍痛はするけど平気かな」

「どんつう?」

「えっと、鈍痛って言うのは・・・・・・・・・」

疲れていた真は夕食を食べてすぐに横になろうと思ったのだが、凛に話をせがまれていた。
というか大地、二日連続でこんなに早く帰ってきて平気なのか。
仮にもエリートじゃないのか。

「そうそう。父さん3月に纏まった休暇とれそうなんだけど、どこかいくかい?真君も一緒に」

「いくー!」

凛が元気に手をあげ、それを見て真は癒されていた。
今日はどこか殺伐とした一日だったなぁ、と振り返ると殺伐というより恐怖にまみれていた一日だったことに気付く。

「真君は予定大丈夫なの?大地さん、真君の予定も考えてあげないと」

「あ、いえ大丈夫です。大地、何日くらいとれそう?」

「一週間だよ」

・・・・・・・・・偉い人がそんなに休みとっても平気なのか?
いやこれでも大地はなかなか腹黒いところがあるし、きっと大丈夫なのだろう。

「俺が旅行先決めようか?コネあるから」

「うん、それじゃあ真君に任せようかな?ただあんまり高いところはやめてね」

「平気だよ。候補に考えているところは貸しがあるし、タダで泊まらしてもらえると思う」

「ほんとかい?それは嬉しいね」

朝霧家の仕事で色々な場所を巡っていたので、顔はやたら広いのだ。
それより今気になることは夕菜が明日、どういう反応をするかだ。
・・・・・・・・・また出会い頭に襲われなければいいのだが。






その晩、朝霧家の正門を自前の鍵で入る者が二名。
一人は死んだ魚のような目で面倒そうに歩いている黒髪ショートの少女。
もう一人のアホ毛つきの黒髪ポニテ少女は超元気いっぱいにスキップして歌いながらくるくる回っている。

「ただいまかえりましたであります師匠!!」

「………ただいま」

「愛様もっと元気よく!ただいまぁ!で、あります!」

「………ただいまぁ」

「語調ちょっと変えただけじゃないですか!?」

ポニテの少女はわーわーぎゃーぎゃー玄関で騒ぎながら何かうずうずしている。
そして奥から足音が聞こえるとアホ毛をくるくる回してテンションをあげていく。
逆にショートの少女、愛はため息を吐いてその人物を待った………が

「おかえりなさい二人とも」

「はれ?奥様?………はっ!?カーラ・マクシリア、ただいま帰還しました!」

「………ただいま」

「愛様さっきからその言葉しか言ってませんよね!?」

カーラにつっこみに愛は面倒そうな顔をする。
彼女は極度のめんどくさがりなのだ。

「………兄さんは?」

「そ、そうです。師匠はいったいどこへ!?ハグは!?再開のハグはお預けでありますか!?」

落ち着けと愛が背中をさするがカーラは目にみえて落ち込んでいく。

「えっと………あのね、二人とも。落ち着いて聞いてほしいんだけど」








「兄さんが勘当されて」

「そのまま親方様が奉納の舞を変わりにして」

「父さんが風邪で寝込んだ?………というより兄さんが………」

驚きに身体を震わせる愛の肩に手をおき、優しく声をかけようとする。

「あ、愛様………」

「………兄さんが、妹離れするなんて」

「そっちでありますか!?」

確かに真のシスコンっぷりは有名な話だが、妹としてまずそこに目をつけるのはどうなんだろう。

「あれ?ところでク・リトルリトルのメンバーはどうしたのですか?先ほどから気配すらしないのですが」

キョロキョロと辺りを見回し、いつもならどこかに潜んでいるク・リトルリトルのメンバーがいないことに気付くカーラ。
それを聞いた愛の顔に多少の驚きが現れ、母に視線で問いかけると気まずそうに言われた。

「………真様じゃないならやめるって言って、出て行ったわ」

「………」

子供かよ、そう言いたげな親子であるが言ってもどうにかなる連中ではない。
そもそも、だ

「ですよねぇ」

カーラもそれに頷いているのだ。
その反応を予想していた愛だが、それでも現在の朝霧家の現状を考えると頭が痛くなる。

「………ようは、あの女がゲームに勝てば兄さんは帰ってくる」

「まぁカーラはどっちでも構いませぬが。師匠以外に付く気はありませぬー」
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR