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2-26 邂逅

「だからね、魔力を含んだゼロピーは・・・・・・・・・」

モンスターの体内の不純物の塊であるゼロピーだが、それ自体に魔力が含まれることは稀だ。
というのも魔力が不純物として認識されなければゼロピーに混入されないからだ。
確かに稀ではあるのだが含まれている魔力は微量な上に珍しい質なわけでもない。
それこそ魔法の媒体としては魔法の触媒によく使われる青い石より遥かに低かった。

「というわけよ。分かった?」

「・・・・・・・・・グー」

「寝てんじゃないわよ!」

「かぴぱら!?」

殴り飛ばされ、赤くなった頬を撫でるギルにさらに追撃を加えようかと構えをとった瞬間、ギルは土下座をした。

「すいませんでした!」

「ま、いいわ。だけど本当にこれ魔法薬に使ったの?
 魔力を含んだゼロピーって保存も面倒だから使い道がなかったと思うけど・・・・・・・ギル、騙されてるんじゃない?」

言われて思い出すのは保健室に所狭しと置かれたホルマリン漬けの○×△と狂喜を帯びた笑み。

「・・・・・・・・・否定できねぇな」

だからといって放棄するわけにもいかず、店を回ってみるがどこの店にもなかった。
むしろ何に使うんだと尋ねられたくらいだ。
空が赤く染まり始めた頃に溜息と共にロロは呟いた。

「駄目ね。その保険医の人に聞いたほうが早そうね」

「俺もそんな気がしてきた・・・・・・・・・うん?」

「ギル、どうかし・・・・・・・・・あの子、大丈夫かしら」

ギルの視線を辿ってみるとそこには三角座りをして噴水の隅で黄昏ているフードをかぶったちっこい人影。
フードからはみ出ている黒い髪は長く、地面にぺたりと力なく並んでいる。
フードコートにデニムを着ており、背丈から判断するに15歳前後だろうか。

「髪、長いな」

「ええ、長いわね」

立てば腰どころか地面にまでつきそうなほど、ロングなその人影はこれ以上ないほど途方にくれていた。
道行く人々も気になってはいるが周囲に張られている負のオーラに近づけないでいる。

「はぁ。・・・・・・・・・どうしよう」

お前本当に途方にくれているのか、と問いたくなるほど感情のこもっていない溜息を声を出すフード。
声から察するに女の子のようだが髪が長くフードで顔が見えないので恐怖を撒き散らしている。
ぶっちゃけると近づきたくない部類だ。

「あなた、どうかしたの?」

「!?ロ、ロロ!?」

よし、帰るか。
そう思った瞬間声をかけたその人物がいつのまにか隣から消えていることに気付いた。
関わらないと決心したにも関わらず話しかけるロロに頭痛を感じる。
このまま置いて帰ろうかとも思うがそんなことをすれば後日殴られることは目に見えている。

「俺達でよければ力になるぜ?」

「・・・・・・・・・はぁ。貴方達じゃ無理」

「ひでぇなおい。こう見えても俺達は───」

「・・・・・・・・・冒険者。腕見れば分かる。はぁ」

「・・・・・・・・・」

しかしどこかで聞いたことがあるような声だ。
記憶の中から引っ張り出そうとするギルだが、どこかが引っかかる。
ジュノーの知り合い連中でもなければ学園の連中でもない。

「こういうのは私が適任よ。ギルは黙ってなさい」

「そしてまた女の子を毒牙にかけるのか」

「うっさいわよ!」

姉御肌のロロはひたすらもてていたのだ。
同性に。

「私はロロ、んでこのボンクラがギルよ、あなたの名前は?」

「おいボンクべりあっ!?」

ボンクラってなんだよ、と抗議の声を上げようと思ったらギルはいつのまにか地面に伏していた。
顎に残る鈍い痛みとロロの手から出ている煙が全てを物語っていた。

「・・・・・・・・・ナノ」

少女が呟いたその一言に不死鳥の如く復活した。
まさか、まさか、まさか、その3文字が脳内を埋め尽くす中でギルは少女を凝視した。

「ナ、ナノちゃんだと!?って待てロロ何で構える」

「あら。視姦は罪よ?」

「あんまりだプトン!?」

「うっさい!また殴るわよ!」

「な・・・・・・・・・殴ってから言うな」

荷物をぶちまけながら転がったギルをフンと鼻で哂ったあとロロはくるりとナノに向き合う。

「ナノちゃん、有名人なの?」

コクリと頷いたナノだがその動作は小さい。

「それで何が困ってるの?」

「・・・・・・・・・別にいい。ナノの問題だから」

「そう。困ったことがあったら何でも言って頂戴ね?これ私の番号だから」

ロロは再び頷いたナノに微笑みかけて頭を撫でた。
まるで微動だにしないナノだがその視線は手元の紙に向けられていた。

「俺の番号も・・・・・・・・・!ってなんで破るロロ!?」

「不純な何かを感じたからよ」

「ひでぇ!俺だってナノちゃんと知り合いたいんだ!」

「却下」

悲しみの叫びをあげるギルを一瞥したあと、クイクイと裾を引っ張られる感覚に再びナノに向き合うロロ。
いったいどうしたのだろうと声をかける前にナノは立ち上がって言った。

「これはこっち」

「へ?」

「魔力を含んだゼロピー。ナノ、知ってる。案内する」

「本当?でもいいの?」

「別にいい。困った時はお互い様」

「な、ナノちゃん何ていい子なの!」

もう妹にしてあげる!とわけの分からないことを言いながらさらに頭を撫でるロロ。
抵抗しないまま撫でられているナノの様子を見てギルはロロに心底羨ましそうに視線を向けているのだった。




「ここ」

「・・・・・・・・・ナノちゃん、本当にここなの?」

引き攣った笑みを浮かべながらロロが聞くが、ナノは頷いたので間違いではないらしい。
ちなみに一通りの少ない路地に入ったあたりからナノはフードをはずしており、
艶やかなその髪を地面スレスレまで伸ばしている。
顔は・・・・・・・・・フードを外した瞬間興奮の絶頂に達したギルが鼻血を出していた。

「アルケミスト専門店。隠れた名店」

「いやでも看板の変わりに骸骨置いてあるし。隠れてねぇだろ」

「・・・・・・・・・?」

「隠れてますよね!これぞ、名店って雰囲気だな!」

小首を傾げたナノに心臓を打ち抜かれた衝動を感じながらギルは弁明した。
店に入ろうとしたロロを服の端を掴むことによってとめてからナノは言った。

「入っちゃ駄目。マスター」

「へ?ナノちゃんどうしたの?」

「魔力を含んだゼロピー。会員ナンバー1384番」

カランコロンと何かが転がる音がしてナノは店のポストの髑髏に手を入れた。

「はいこれ」

「・・・・・・・・・何だよこれ?」

「魔力を含ん」

「いやそうじゃなくてだな・・・・・・・・・入ったらどうなるんだ?」

手にもったそれをロロに渡してから少したって、ナノは言った。

「大変なことになる」

「大変なことって何だよ!?ていうかやっぱり見た目どおりの店かこんちくしょう!」

「だけど本当にナノちゃんがいて助かったわね・・・・・・・・・ありがとね、ナノちゃん」

「構わない。そろそろ行かないと」

別れの挨拶を済ませたあとナノはフードをかぶって表通りへと向かっていった。





「いい子ね・・・・・・・・・守ってあげたくなるような可愛さだったわ」

「まさに現役アイドルってオーラだったな」

「・・・・・・・・・アイドル?」

「いやだからNINO&NANOのだな」

「・・・・・・・・・本当に有名人だったのね」






トントンと石畳を歩く音が暗闇に鳴り響く。
プロンテラの裏通り、さらに言えばアサシンなどがよく使うプロンテラ騎士団が把握しきれていない道。
もちろんそんな場所に民家なんてあるわけがない。
そこはかつてモンスター召還テロにより半壊したエリアE。
半壊といっても話は数十年前なので今では見る影もないが、人が住んでいないのも事実。
現在のエリアEは無人で動く工場やならず者の隠れ場があるくらいだった。

「ようやく見つけたで」

「・・・・・・・・・」

そこで人殺しが起きることは珍しくなく、同時に殺し合いが起こることも珍しくない。
そう、彼らのように。

「心配せんでええ。ワイは・・・・・・・・・女の子には優しいんや」

「・・・・・・・・・」

「苦しまずに・・・・・・・・・死ね」

茶髪の男、アレスが無表情で呟くと同時に腕輪から無数の剣を取り出した。
その無数の剣は一人でに宙に浮いて標的に剣先を向ける。
黒い髪の彼女は地面スレスレの髪をゴムで一纏めにして後ろに垂らすと剣の柄を取り出した。

「コード、大禍津日神」

その言葉と共に剣の柄から伸びた謎の刀身にアレスは眉を顰める。

「不吉な黒髪に不吉な神の名・・・・・・・・・ほんま忌々しいわ。なぁ」

アレスは宙で待機していた無数の剣に命令をくだしてから言った。

「ナノはん」

無数の剣が彼女に向かって殺到した。
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