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1.5 間章:夢

全てが焼け崩れる中、俺は呆然と立ち尽くした。
焼けていく友人達。
崩れていく遊び場。
勇敢にもあれに立ち向かい、死んでいく冒険者達。
奴は鎌を持ってひたすらに哂い続けている。
なんで自分の周りだけ火の手がないか。
簡単だ。
もはや血の海であるこの広間に、火がつくことがないだけだ。
これは夢だ。
時々見る夢。
なぜなら・・・・・・・・・






「またかよ」

ファルじゃないのに、と思いながらも溜息は吐く赤い髪の少年、ギル。
夢なんて内容、本来は覚えていないことが多いのに何度も見るこれは必然的に覚えてしまう。
まるで忘れるなと言わんばかりである。
まったくもって馬鹿馬鹿しい。
あれは夢に決まっているのだ。
確かに自分の故郷はあれ・・・・・・・・・バフォメットによって半壊したが、夢の光景は所詮夢なのだ。
なぜなら・・・・・・・・・いや、やめておこう。
あんな夢、嘘に決まっている。
だいたいありえない。
そう、ありえないんだ。








誰かが絶望した時、それは現れる。
誰かが絶望した時、それは囁く。
もういいじゃないか。
考えていても解決しない。
ならば心の赴くままにすればいい。
自分の気に入らない全てを壊せばいい。
誰だってそうだろう。
押さえつけているだけで、本当は気に入らないものを排除したいはずだ。
何故我慢する必要がある?
常識なんて忘れろ。
一般的な概念のそれは単に社会の枠組みであって、常識は本来自分で構成するものを言うんだ。
他を取るか我を取るか、それは人それぞれによって決まる。
だが誰だって本当は我を取りたいものだ。
だから良いんだ。
全てを、委ね、私と






踊りましょう?






「・・・・・・・・・っ!?」

少し固めの備え付けのベッドから飛び起きるように上半身を起こす。
その反動でギシリと僅かな軋みの音が聞こえる。
頭はクラクラし、貧血のような症状を感じる。
ふと同じく備え付けの鏡を見てみると酷い顔をしていた。
顔は真っ青になり、目にはクマが出来ている。
いつものように寝ているようで全然寝られていなかったようだ。

「はぁ」

そして白髪の鍵のペンダントを下げた少年、ファルは溜息を吐く。
またか、そう思い枕を裏返してみる。
そこには青い水晶が埋め込まれたペンダント。

「これもダメかぁ・・・・・・・・・気休めも気休めにならないね」

再び溜息を吐き、そのペンダントを右手についている銀の腕輪に収納する。
これこそ冒険者の必需品、収納の腕輪。
取り出したいものを思い浮かべてトントンと叩くだけで物品が取り出せる便利すぎる代物。
だがこんなものにも制約があり、実は入れられる量が限られており、面積で言う2m四方程しか入らない。
だからこそ引越しの時に使えなかったわけだが。

「・・・・・・・・・」

視線を腕輪からベッドに移すと、そこには大量に湿ったシーツ。
別に漏らしたわけではない。
尋常じゃない程汗を流しただけだ。
一度だけギルに誤解されたことがあったが、それはまた別の話だ。

「・・・・・・・・・あ」

そういえば今日は入学式だ。
地下室のドタバタがあって少し忘れていたが、ファルは今日、ギルとロロを起こして早めに支度をしなければならない。
彼らは一人では起きられないのだ。
だからそう、仕方ないのだ。
そう自分に言い聞かせて溜息を吐きつつシャワーで汗を流し、制服に着替える。
鏡でどこかおかしいところがないか見てみるが、問題はないようだ。

「行くかな」

どうせこれ以上遅くなれば文句を言われるのは自分だ。







昔々、暗闇の中でそれは囁いた。
全てを、委ね、私と






踊りましょう?
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