2-47 ツンデレ+料理下手=致死性一歩手前の毒
ロロ=ノクトンは乙女である。
毎朝毎朝幼馴染の男の子によって起こされ、料理がまったく出来ないが、それでも乙女である。
幼馴染のギルが聞いたら一笑し、蹴り倒されるだろうが、乙女である。
そんなロロの最近の日課はファルに料理を教わることだった。
というのもたしか入学式くらいの時期がきっかけで料理を覚え始めたのだが、これがまた難関だった。
まずレシピを渡されてチャーハンを作らされた。
最初は目玉焼きが課題だったのだが、いくらなんでも馬鹿にしすぎだとロロは怒った。
そして作られたチャーハン。
色は何故か銀色に鈍く輝いており、謎の発光現象がおきていてもチャーハンである。
ちょうどファルの部屋にいたジーナもこの時ばかりは顔を引き攣らせていた。
ギルを呼んで食べさせてみたが、食べた瞬間わけの分からないことを叫んでファルにル○ンダイブしたのは何だったんだろう。
ちなみにその後ジーナの暴徒鎮圧用弾丸でノックアウトされたギルの口にファルが無理矢理チャーハン?を詰め込んでいた。
よしこれで完璧だ、ロロはそう思ったがなんでか作る料理はチャーハンから目玉焼きに難易度が急降下。
ファルに聞いてみたが基礎が大事と何度も繰り返すばかりで、納得は出来ないが師匠の言うことなんだから無理矢理納得はしておいた。
「これで完成っと」
そんなロロが今、謎の虹色で独りでに蠢く料理を皿に盛り付けていた。
盛り付ける時に少々暴れて手こずったが、力技で黙らせた。
ふとベッドのほうを見てみると、そこには布団をかぶっていかにも「私、無関係です」とアピールするジーナの姿が。
ファルは既にギルの部屋に直行しており、今頃縄で縛ってつれてくる頃だろう。
ファルが言うには幼馴染の手料理を食べるのが恥ずかしいだけだという。
そんなこと言われればロロとて恥ずかしく、ついギルとファルに照れ隠しの回し蹴りを放ってしまうのも、たまにあることだ。
「頼む!見逃してくれファル!」
「・・・・・・・・・」
そんなギルの言葉にファルはまるで絶望的な戦況の中、
少しでも敵に損害を与えるために特攻する戦士を見送るかのような視線を送るだけだ。
「はい、あーん」
顔が真っ赤に火照るのを感じつつ盛り付けた料理をスプーンにとり、直接ギルの口元へと持っていく。
本来こんなことしてやる義理はないのだが、ギルは今手足を縛られている。
もちろん解いてやるのが一番なのだがそんなことをすれば恥ずかしいからと逃げていくに違いない。
イヤイヤとギルが顔を真っ青にしながら命乞いの言葉を吐くが、ファルは手遅れですと言わんばかりに首を振る。
「俺達親友だろ!?」
「・・・・・・・・・残念ですが」
「ファ・・・・・・・・・」
ル、そう言おうとして大きく口を開けた瞬間、放り込まれる物体X。
それはまるで宇宙の神秘を体現したかのような、ニブルヘイムとムスペルヘイムが合体したかのような。
神秘。
神秘。
神秘。
「&”@-$#&%!?」
言葉にならない声を叫びながら物体Xを吐き出そうとするギル。
しかしそれをロロに察知される前にファルが顎を無理矢理押さえつける。
「・・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!・・・・・・・・・」
最初は手足が縛られながらも打ち上げられた魚のように激しく動いていたギルだが、それも数秒だけ。
今やそこにいるのは味覚を通して脳を得たいの知れない何かで侵食された哀れな犠牲者が一人。
白目を向いているがファルとジーナは見なかったことにして使った鍋を片付け始めた。
ロロは思った。
今日も美味しく作れたみたいだ、と。
最近日課となりつつあるSAN値がチェックされる料理を食わされたギルは、胃薬を飲んで自室で横たわっていた。
出来ることなら美味しく頂いてやりたいが、あれはどんな調味料を足しても食べたいと思えない代物だった。
思えばロロが料理を作り始めたのは王立学園に入学してからしばらくのことだった。
最初こそ「何か始めたな」と他人事のように思っていた。
それからしばらくの間ファルとジーナが哀れみの篭った目で見てくることに疑問を感じていたが、その時気付くべきだった。
「・・・・・・・・・」
ロロの料理は一言でいうなら『錬金術』である。
先程の料理だって原型すら留めていないが実は目玉焼きである。
いったい何をどう調理したら卵があの謎の物体Xになるのだろうか。
一度だけファルに聞いてみたことがあるが、心底不思議そうに首を傾げていたのが印象的だった。
ファル曰く
「僕がちゃんと隣で見てるんだけど、気付けば謎の生命体になってたり、謎の現象を起こす物体になってたりするんだよね。
一度も目を閉じないで見てみても、気付いたら変化してるんだ。僕には理解できない現象だったよ」
とのことらしい。
ただ不味いだけならいいのだが、最初の日に作ったチャーハン?は何故か洗脳効果のようなものがあった。
細かいところは覚えていないのだが、ファルに対して抗いようのないほどの欲情を感じてしまったのだけは覚えている。
ちなみにあの後かなり荒っぽかったが止めてくれたジーナに涙しながら感謝した。
その晩、胸焼けが一晩中止まらず眠れぬ夜を過ごしたのは今となっては懐かしい出来事だ。
なんせ今はロロの料理を食べても1時間後には必ず起き上がるからだ。
身体がロロの料理に対して抵抗力を身につけたということだろうが、素直に喜べない。
「というか何で料理なんてしてるんだ・・・・・・・・・?」
ロロが料理を始めた理由を本人に聞いてみるととび蹴りが飛んでくるし、ファルに聞いてみると苦笑いを返される。
ジーナにいたっては暴言が返ってくる。
どうにかしないと死ぬ。
胃袋的に。
そう思っていたのも初期段階だけで、今となって・・・・・・・・・いや、よそう。
そのせいかその辺に関して問い詰めようという気が薄れてきているのは確かだ。
だが原因を突き止め、究明しなくてはこの無限地獄が終わらない。
え?ロロに直接言えって?
無茶言うな。
負けず嫌いのあいつにそんなこと言えばより悪化するに違いない。
毎朝毎朝幼馴染の男の子によって起こされ、料理がまったく出来ないが、それでも乙女である。
幼馴染のギルが聞いたら一笑し、蹴り倒されるだろうが、乙女である。
そんなロロの最近の日課はファルに料理を教わることだった。
というのもたしか入学式くらいの時期がきっかけで料理を覚え始めたのだが、これがまた難関だった。
まずレシピを渡されてチャーハンを作らされた。
最初は目玉焼きが課題だったのだが、いくらなんでも馬鹿にしすぎだとロロは怒った。
そして作られたチャーハン。
色は何故か銀色に鈍く輝いており、謎の発光現象がおきていてもチャーハンである。
ちょうどファルの部屋にいたジーナもこの時ばかりは顔を引き攣らせていた。
ギルを呼んで食べさせてみたが、食べた瞬間わけの分からないことを叫んでファルにル○ンダイブしたのは何だったんだろう。
ちなみにその後ジーナの暴徒鎮圧用弾丸でノックアウトされたギルの口にファルが無理矢理チャーハン?を詰め込んでいた。
よしこれで完璧だ、ロロはそう思ったがなんでか作る料理はチャーハンから目玉焼きに難易度が急降下。
ファルに聞いてみたが基礎が大事と何度も繰り返すばかりで、納得は出来ないが師匠の言うことなんだから無理矢理納得はしておいた。
「これで完成っと」
そんなロロが今、謎の虹色で独りでに蠢く料理を皿に盛り付けていた。
盛り付ける時に少々暴れて手こずったが、力技で黙らせた。
ふとベッドのほうを見てみると、そこには布団をかぶっていかにも「私、無関係です」とアピールするジーナの姿が。
ファルは既にギルの部屋に直行しており、今頃縄で縛ってつれてくる頃だろう。
ファルが言うには幼馴染の手料理を食べるのが恥ずかしいだけだという。
そんなこと言われればロロとて恥ずかしく、ついギルとファルに照れ隠しの回し蹴りを放ってしまうのも、たまにあることだ。
「頼む!見逃してくれファル!」
「・・・・・・・・・」
そんなギルの言葉にファルはまるで絶望的な戦況の中、
少しでも敵に損害を与えるために特攻する戦士を見送るかのような視線を送るだけだ。
「はい、あーん」
顔が真っ赤に火照るのを感じつつ盛り付けた料理をスプーンにとり、直接ギルの口元へと持っていく。
本来こんなことしてやる義理はないのだが、ギルは今手足を縛られている。
もちろん解いてやるのが一番なのだがそんなことをすれば恥ずかしいからと逃げていくに違いない。
イヤイヤとギルが顔を真っ青にしながら命乞いの言葉を吐くが、ファルは手遅れですと言わんばかりに首を振る。
「俺達親友だろ!?」
「・・・・・・・・・残念ですが」
「ファ・・・・・・・・・」
ル、そう言おうとして大きく口を開けた瞬間、放り込まれる物体X。
それはまるで宇宙の神秘を体現したかのような、ニブルヘイムとムスペルヘイムが合体したかのような。
神秘。
神秘。
神秘。
「&”@-$#&%!?」
言葉にならない声を叫びながら物体Xを吐き出そうとするギル。
しかしそれをロロに察知される前にファルが顎を無理矢理押さえつける。
「・・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!・・・・・・・・・」
最初は手足が縛られながらも打ち上げられた魚のように激しく動いていたギルだが、それも数秒だけ。
今やそこにいるのは味覚を通して脳を得たいの知れない何かで侵食された哀れな犠牲者が一人。
白目を向いているがファルとジーナは見なかったことにして使った鍋を片付け始めた。
ロロは思った。
今日も美味しく作れたみたいだ、と。
最近日課となりつつあるSAN値がチェックされる料理を食わされたギルは、胃薬を飲んで自室で横たわっていた。
出来ることなら美味しく頂いてやりたいが、あれはどんな調味料を足しても食べたいと思えない代物だった。
思えばロロが料理を作り始めたのは王立学園に入学してからしばらくのことだった。
最初こそ「何か始めたな」と他人事のように思っていた。
それからしばらくの間ファルとジーナが哀れみの篭った目で見てくることに疑問を感じていたが、その時気付くべきだった。
「・・・・・・・・・」
ロロの料理は一言でいうなら『錬金術』である。
先程の料理だって原型すら留めていないが実は目玉焼きである。
いったい何をどう調理したら卵があの謎の物体Xになるのだろうか。
一度だけファルに聞いてみたことがあるが、心底不思議そうに首を傾げていたのが印象的だった。
ファル曰く
「僕がちゃんと隣で見てるんだけど、気付けば謎の生命体になってたり、謎の現象を起こす物体になってたりするんだよね。
一度も目を閉じないで見てみても、気付いたら変化してるんだ。僕には理解できない現象だったよ」
とのことらしい。
ただ不味いだけならいいのだが、最初の日に作ったチャーハン?は何故か洗脳効果のようなものがあった。
細かいところは覚えていないのだが、ファルに対して抗いようのないほどの欲情を感じてしまったのだけは覚えている。
ちなみにあの後かなり荒っぽかったが止めてくれたジーナに涙しながら感謝した。
その晩、胸焼けが一晩中止まらず眠れぬ夜を過ごしたのは今となっては懐かしい出来事だ。
なんせ今はロロの料理を食べても1時間後には必ず起き上がるからだ。
身体がロロの料理に対して抵抗力を身につけたということだろうが、素直に喜べない。
「というか何で料理なんてしてるんだ・・・・・・・・・?」
ロロが料理を始めた理由を本人に聞いてみるととび蹴りが飛んでくるし、ファルに聞いてみると苦笑いを返される。
ジーナにいたっては暴言が返ってくる。
どうにかしないと死ぬ。
胃袋的に。
そう思っていたのも初期段階だけで、今となって・・・・・・・・・いや、よそう。
そのせいかその辺に関して問い詰めようという気が薄れてきているのは確かだ。
だが原因を突き止め、究明しなくてはこの無限地獄が終わらない。
え?ロロに直接言えって?
無茶言うな。
負けず嫌いのあいつにそんなこと言えばより悪化するに違いない。
2-46 隠された力?
意識が浮上する。
懐かしい何かを見ていた気がするが、身についた習慣がそれを振り払う。
重い目をあけてベッドの傍においた腕輪の目覚まし昨日を呼ぶ。
いつもどおりの起床時間であることを確認すると軽く頭を振ってふらふらと洗面台へ向かう。
顔を洗うと裏庭へと向かい、バスターソードを腕輪から取り出して素振りと型の練習をする。
以前は中庭でもしていたが好奇の視線に晒され、人気のない裏庭へと移動した。
少し寮からの距離が遠くなったものの、静かで集中できるのが何よりもの利点だ。
そして今日の日課はいつもどおり終わる・・・・・・・・・はずだった。
「あれ?」
自分の技じゃないような。
そんな疑問を浮かべつつもう一度無意識に放った技を意識的に放つと、再び思案する。
ナニコノワザ
「・・・・・・・・・つまり俺の隠された能力ってことだな!」
なるほど、俺やるじゃねぇか。
もちろん心の底からそう思っているわけじゃないが、考えるのが面倒なギルはそう思うことにした。
なんか知らんけど技が増えた、それでいいと。
日課を終えると汗を流すためにシャワーを浴びる。
そして部屋でバスターソードの簡易的な手入れをしてから部屋を出る。
向かうのはファルの部屋だ。
ファルの部屋はギルの部屋と同じ階に存在しており、またそんなに離れてもいないのですぐにつく。
ノックをすると中から出てきたのはファル・・・・・・・・・じゃなくてジーナ。
「早く座ってくださいうすのろ」
朝一番の挨拶が罵倒のジーナに最早慣れつつあることに嘆きながら既にテーブルに用意されている朝食に手をつける。
ロロは既に食べ終わっており、ファッション雑誌を広げてソファーでゴロゴロしていた。
まるで自室にいるかのような自堕落さだが、ここはファルの部屋だ。
その辺のことを忘れてないかと思いつつギルはキッチンで食器を洗う二人を見つめる。
ファルとジーナ、この二人が怪しいと思っていたのは出会った頃からだった。
何も恋路だけに限ったことではない。
全ての面において怪しいのだ。
もちろんギルは友達だと思っていたので追及はしなかったのだが、もし聞いたとしても彼らは答えなかっただろう。
思えばジーナがロロのことをお姉さまと呼んで慕う『ふり』をし始めたのもあの事件からだった。
ジュノーのモンスター襲撃事件・・・・・・・・・あの日何があったかは知らないが、二人の間で何かが決定的に変わったのは確かだ。
二人は自分のことをまだ何も気付いていないと思っているようだが実際は色々なことに気付いている。
つうかあれだ。
こいつら、同棲しといて隠す気ゼロだもんな。
いつファルの部屋いってもジーナいるし。
・・・・・・・・・ロロは何故か気付いてないけど。
「やれやれ」
それでも普段二人から甘い空気が一切流れないのは何か事情があるのだろう。
本音はその事情を聞いてどうにかしてあげたいのだが、ファルはともかくジーナはそういうのを何より嫌うだろう。
ならば親友として出来るのは見守ることだけだ。
「さぁ逝くでがんす」
「食らいなさい!」
「いやでござる!見守るだけでござる!」
「何とち狂ってんですか!?」
いやいやいやいやジーナさん!?
模擬戦で銃使うってなんなんですか!?
なんなんですか!?
「死ぬ!絶対死ぬ!当たったら死ぬ!」
「大丈夫ですよ。模擬弾ですから。当たっても死ぬほど痛いだけです」
「だけ、ってなんだ!?十分じゃないか!」
今行われているのはギルとジーナの模擬戦。
平原に書かれたサークルの中のみで動き回り、相手に有効打を与えたほうの勝ちだ。
ギルは手にもった木刀で飛んでくるゴム弾を打ち払い、そして避ける。
一方ジーナはギルを近づけまいとここぞとばかり嫌らしい位置にゴム弾をばらまいている。
普通木刀で防ぐ場合最も弾きにくい場所は下段と上段だ。
というのも人間が木刀を持つとその性質上正面が最も振りやすい。
もちろん下段と上段にも振れるが真正面程振りやすくはない。
しかし防御しにくいというだけで回避という面なら一番楽でもある。
が、ギルは回避より防御のほうが得意なのでつい弾いてしまうのだが・・・・・・・・・それが現在の状況を作り出していた。
「ちぃっ!」
執拗に足元を狙ってばらまかれるゴム弾。
たまに跳弾で予測もつかない軌跡を描き、足にもいくつか被弾している。
・・・・・・・・・めちゃくちゃ痛いのと、いつ男の弱点に当たるかで凄く怖いんですが。
リロードの合間にも近寄ろうとするが、危なくなると腕輪から予備の銃を取り出して連射する。
「これ・・・・・・・・・卑怯じゃねぇのか!?」
「あら、なんのことでしょうか?」
「だいたいあと何発あるんだよ!?」
「私の弾丸は108式まであります」
「どういう意味で!?」
「隙あり」
しまった!
そう思う間もなく弾丸を弾いたままの体勢で硬直してしまう。
そしてジーナの手に持つ銃口はギルの頭に向けられる。
ゴム弾でも頭に当たると宣言通り死ぬほど痛いんですが!?
交わったジーナとの視線でそう目で訴えかけるが、帰って来た言葉は
「大丈夫ですよ。死にはしませんから」
・・・・・・・・・。
本気でやばい、明日はニノ&ナノのライブなのだ。
頭に直撃なんてしたら間違いなく昏睡する。
明日起きられるかは謎であるが、そんな賭けはしたくない。
「うおおおおおお!」
「はい?」
崩れた体勢を立て直そうとする力を抜き、木刀を思いっきり地面に突き刺す。
そのままの勢いで一回転。
頬をかすめる弾丸を感じながら何も考えることなくジーナの下へと走り出す。
次いで2発目、3発目と今度は確実に当て、足を止めるために胴に向かって弾丸が放たれるが足を止めないで
「っ!?」
弾丸を切り裂いた。
驚愕に足を止めたジーナに構うことなく手に持たれた銃にむかって一閃。
そのまま木刀を反すことなくジーナの喉下へと突きつける。
「・・・・・・・・・降参です」
その頃ファルはロロの蹴りをかわしながら今のギルの動きを見て驚いていた。
あの動きは・・・・・・・・・いや、あの技は間違いなく彼の技。
初代プロンテラ王、ロズウェルが使っていた武器を問わない確実に斬る為の技。
なんで彼がそんな技を?
そう思案するがその答えを出す前に
「いい加減食らいなさいっ!」
「へ?げっぽるぁ!?」
ロロの足技によって意識を刈られた。
懐かしい何かを見ていた気がするが、身についた習慣がそれを振り払う。
重い目をあけてベッドの傍においた腕輪の目覚まし昨日を呼ぶ。
いつもどおりの起床時間であることを確認すると軽く頭を振ってふらふらと洗面台へ向かう。
顔を洗うと裏庭へと向かい、バスターソードを腕輪から取り出して素振りと型の練習をする。
以前は中庭でもしていたが好奇の視線に晒され、人気のない裏庭へと移動した。
少し寮からの距離が遠くなったものの、静かで集中できるのが何よりもの利点だ。
そして今日の日課はいつもどおり終わる・・・・・・・・・はずだった。
「あれ?」
自分の技じゃないような。
そんな疑問を浮かべつつもう一度無意識に放った技を意識的に放つと、再び思案する。
ナニコノワザ
「・・・・・・・・・つまり俺の隠された能力ってことだな!」
なるほど、俺やるじゃねぇか。
もちろん心の底からそう思っているわけじゃないが、考えるのが面倒なギルはそう思うことにした。
なんか知らんけど技が増えた、それでいいと。
日課を終えると汗を流すためにシャワーを浴びる。
そして部屋でバスターソードの簡易的な手入れをしてから部屋を出る。
向かうのはファルの部屋だ。
ファルの部屋はギルの部屋と同じ階に存在しており、またそんなに離れてもいないのですぐにつく。
ノックをすると中から出てきたのはファル・・・・・・・・・じゃなくてジーナ。
「早く座ってくださいうすのろ」
朝一番の挨拶が罵倒のジーナに最早慣れつつあることに嘆きながら既にテーブルに用意されている朝食に手をつける。
ロロは既に食べ終わっており、ファッション雑誌を広げてソファーでゴロゴロしていた。
まるで自室にいるかのような自堕落さだが、ここはファルの部屋だ。
その辺のことを忘れてないかと思いつつギルはキッチンで食器を洗う二人を見つめる。
ファルとジーナ、この二人が怪しいと思っていたのは出会った頃からだった。
何も恋路だけに限ったことではない。
全ての面において怪しいのだ。
もちろんギルは友達だと思っていたので追及はしなかったのだが、もし聞いたとしても彼らは答えなかっただろう。
思えばジーナがロロのことをお姉さまと呼んで慕う『ふり』をし始めたのもあの事件からだった。
ジュノーのモンスター襲撃事件・・・・・・・・・あの日何があったかは知らないが、二人の間で何かが決定的に変わったのは確かだ。
二人は自分のことをまだ何も気付いていないと思っているようだが実際は色々なことに気付いている。
つうかあれだ。
こいつら、同棲しといて隠す気ゼロだもんな。
いつファルの部屋いってもジーナいるし。
・・・・・・・・・ロロは何故か気付いてないけど。
「やれやれ」
それでも普段二人から甘い空気が一切流れないのは何か事情があるのだろう。
本音はその事情を聞いてどうにかしてあげたいのだが、ファルはともかくジーナはそういうのを何より嫌うだろう。
ならば親友として出来るのは見守ることだけだ。
「さぁ逝くでがんす」
「食らいなさい!」
「いやでござる!見守るだけでござる!」
「何とち狂ってんですか!?」
いやいやいやいやジーナさん!?
模擬戦で銃使うってなんなんですか!?
なんなんですか!?
「死ぬ!絶対死ぬ!当たったら死ぬ!」
「大丈夫ですよ。模擬弾ですから。当たっても死ぬほど痛いだけです」
「だけ、ってなんだ!?十分じゃないか!」
今行われているのはギルとジーナの模擬戦。
平原に書かれたサークルの中のみで動き回り、相手に有効打を与えたほうの勝ちだ。
ギルは手にもった木刀で飛んでくるゴム弾を打ち払い、そして避ける。
一方ジーナはギルを近づけまいとここぞとばかり嫌らしい位置にゴム弾をばらまいている。
普通木刀で防ぐ場合最も弾きにくい場所は下段と上段だ。
というのも人間が木刀を持つとその性質上正面が最も振りやすい。
もちろん下段と上段にも振れるが真正面程振りやすくはない。
しかし防御しにくいというだけで回避という面なら一番楽でもある。
が、ギルは回避より防御のほうが得意なのでつい弾いてしまうのだが・・・・・・・・・それが現在の状況を作り出していた。
「ちぃっ!」
執拗に足元を狙ってばらまかれるゴム弾。
たまに跳弾で予測もつかない軌跡を描き、足にもいくつか被弾している。
・・・・・・・・・めちゃくちゃ痛いのと、いつ男の弱点に当たるかで凄く怖いんですが。
リロードの合間にも近寄ろうとするが、危なくなると腕輪から予備の銃を取り出して連射する。
「これ・・・・・・・・・卑怯じゃねぇのか!?」
「あら、なんのことでしょうか?」
「だいたいあと何発あるんだよ!?」
「私の弾丸は108式まであります」
「どういう意味で!?」
「隙あり」
しまった!
そう思う間もなく弾丸を弾いたままの体勢で硬直してしまう。
そしてジーナの手に持つ銃口はギルの頭に向けられる。
ゴム弾でも頭に当たると宣言通り死ぬほど痛いんですが!?
交わったジーナとの視線でそう目で訴えかけるが、帰って来た言葉は
「大丈夫ですよ。死にはしませんから」
・・・・・・・・・。
本気でやばい、明日はニノ&ナノのライブなのだ。
頭に直撃なんてしたら間違いなく昏睡する。
明日起きられるかは謎であるが、そんな賭けはしたくない。
「うおおおおおお!」
「はい?」
崩れた体勢を立て直そうとする力を抜き、木刀を思いっきり地面に突き刺す。
そのままの勢いで一回転。
頬をかすめる弾丸を感じながら何も考えることなくジーナの下へと走り出す。
次いで2発目、3発目と今度は確実に当て、足を止めるために胴に向かって弾丸が放たれるが足を止めないで
「っ!?」
弾丸を切り裂いた。
驚愕に足を止めたジーナに構うことなく手に持たれた銃にむかって一閃。
そのまま木刀を反すことなくジーナの喉下へと突きつける。
「・・・・・・・・・降参です」
その頃ファルはロロの蹴りをかわしながら今のギルの動きを見て驚いていた。
あの動きは・・・・・・・・・いや、あの技は間違いなく彼の技。
初代プロンテラ王、ロズウェルが使っていた武器を問わない確実に斬る為の技。
なんで彼がそんな技を?
そう思案するがその答えを出す前に
「いい加減食らいなさいっ!」
「へ?げっぽるぁ!?」
ロロの足技によって意識を刈られた。