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2-51 第一次○○大戦

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

ファルとジーナは魔女釜の前で呆然としていた。
二人の胸にはほんの一握りの達成感と歓喜、そしてどこまでも大きな後悔だった。

「僕達はなんてものを作ってしまったんだ・・・・・・・・・」

「ええ・・・・・・・・・これはとんでもないものです」

もしこれが世に放たれるようなことがあれば世界は混沌の渦に叩き込まれるだろう。
ならば早くこれを処分しなければならない。
だがどうやって?

「・・・・・・・・・ファルさん」

「うん?」

「解毒剤、作りませんか?」

「いや、処分したほうが早いと思うんだけど」

確かに凄い効果ではあると思うのだが、世の中の人間から壮大なバッシングを受ける可能性がある。
解毒剤なんて悠長に作ってないで処分したほうが安全かつ確実である。

「解毒剤そのものは三日あれば作れると思います」

「・・・・・・・・・そんなに早くにかい?」

「正確に言えば解毒剤ではなく、前に作った正反対の薬ですが」

前に作った、と言えば・・・・・・・・・トナ校長に渡したあれだろうか。
そういえばあの薬、どこにいったんだろう。
二ヶ月以上たってるからすっかり忘れていたが、あれは売るとそこそこの家を建てられるくらいの値段になる。
もちろん材料もそれなりにお金がかかるのだが何よりも大事なのが一日中かかる緻密な作業だ。

「となれば材料集めか・・・・・・・・・」

「はい。上手く集まれば明日には作れると思いますが・・・・・・・・・最悪三日かかります」

「でもこれって下手な兵器より恐ろしいんだよね。これを特訓内容に組み入れればそれこそ皆死に物狂いで戦うと思うけど」

ですよねぇ。
そう言い放ち、腕輪から関係者に材料の問い合わせのメールを入れる。
色々問題があると思うが・・・・・・・・・まぁいいか。
そう思い彼はこの薬をトナ校長に提供することにした。
即ち───胸が小さくなる薬を。






時々、ふざけてると思うんだこの学園。

「というわけで超サバイバル☆どきどき鬼ごっこの開始なの!」

うん、本当にふざけてると思う。

「そう思うよな?ロロ」

「ブツブツブツブツブツブツ」

「・・・・・・・・・。そう思うよなアレス!」

「お・・・・・・・・・おっぱいがちっぱい・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そう思うよなティアマト!?」

「・・・・・・・・・。あたいもちょっとあれは勘弁してほしいかなぁ」

やっとまともに反応してくれたティアマトにある種の感動を覚えつつ『あれ』をもう一度見据える。

「胸囲減少砲だっけか?何の需要があるんだあれ・・・・・・・・・?」

「女にとっては存在そのものすら許容できない代物であることには変わらないわ」

どこかで見たようなネコ型ロボットの形をしたロボットがこれまたどこかで見たような黒い筒状のものを手にはめている。
音声までは再現できなかったのか、トナ校長の声で「どかん!」という声とともに黒い筒から謎の液体が弾状になって発射される。
なんで姿形は真似できて声は真似できなかったんだよとかいうツッコミも最早無意味だろう。

「ティアマトは逃げないのか?」

「あたいはほら、存在そのものを歪めてセンサーとか誤魔化してるし」

よく分からないが高等技能っぽかった。
とにかくいまだブツブツ何かを呟いているホラーばりのビジュアルになっているロロをどうにかしなければ。
幸いにもロボットは別の人物を追っていき、ここにはいないがいつまでも校庭でノンビリとしているわけにはいかない。
このまま寮に帰って不貞寝したい衝動にかられつつもロロを抱えてギルは走り出した。





ギルは気付いていない。
貧乳派男子が逃亡者達の行方をことごとく遮るのを。
そして王立学園はバイオハザードの如く一つの追跡者によって、阿鼻叫喚の地獄図へと誘われるのだった。






「という夢を見たんだ」

「いや、ギル・・・・・・・・・自分の部屋が無くなったからって現実逃避してないで。現実だよ」

「嘘だっ!!!」

後に第一次貧乳大戦と呼ばれた戦いから翌日、ギルは消滅した自分の部屋の前で呆然としていた。
ちなみにこのネーミングだがアレスが特に深く考えずにつけたところ何故か正式採用されたという謎の経歴を持っている。

「・・・・・・・・・追跡者が俺の部屋で自爆するなんて夢を見たんだ」

「戦わなきゃ。現実と」

「嘘だっ!!!」

「・・・・・・・・・本当に追い詰められてるね、ギル」

呆れた顔で言い放つファルだがギルの耳には最早何も聞こえていない。
ちなみにロロは胸囲減少銃を食らったのでトナ校長の所へ解毒剤をうちにいった。
ぶっちゃけ減ったか分からなかったのだが、言えば確実に首が消し飛んでいたので何も言わなかった。
そこまで思い出してギルはようやく今後についてを考え始めた。
まず第一に部屋が修復されるまで他の人の部屋に居座らせてもらう。
この場合候補はうちのクラスメイトだが・・・・・・・・・。

「ロロは不味いよな。さすがに」

第一に考えたのが幼馴染のロロ。
男女で同じ部屋とか普通にまずい。
冒険者としてならどうとも思わないのだが、日常生活で女性と同じ部屋で寝るなんて恥ずかしくて仕方がない。
同じ理由でティアマトも却下だ。
となると次はファルの部屋だが・・・・・・・・・奴の部屋にはジーナも住んでいる。
どう考えても泊まればお邪魔になるだろう。
となれば残るはアレスだが

「あいつの部屋ってどこなんだ?」

そういえば見たことないな、と思案するが知らないものは仕方がない。
事は緊急を要するのだ。
今日中に寝床を確保できなければ野宿となるのは確実だ。
ということでアレスの所へ泊まるのは保留として

「あとは宿屋か?」

といってもお金にそこまで余裕があるわけではない。
前回のゴブリン討伐で頑張ったのである程度のお金はもらえたがそれでも宿屋に一週間も泊まれば底を尽きるくらいだ。

「・・・・・・・・・あとは知り合いか」

自身が知り合った者の家に押しかける。
ある意味一番快適だろうが何より問題なのは首都プロンテラの中に王立学園はあるといってもかなり遠いのだ。
つまり登校時間を考えるとかなり早く起きなければ・・・・・・・・・待てよ?
朝の鍛錬をランニングにして王立学園まで来て、シャワーをファルかアレスの部屋で浴びれば・・・・・・・・・。
知り合いによってはこれが一番妥当な線なのかもしれない。
となるとまず思いつくのがナノちゃん。
・・・・・・・・・いや、思いつくなよ俺。
一番ダメな選択肢だろそれ。
そして次に思いついたのはペン太先生。
非常勤なのでたまに顔を合わせる程度だが、教え子を放り出すような人ではなかった。
次がアカシア・・・・・・・・・本当に顔見知り程度な上、犯罪者じゃねぇか。
あれ?
よく考えたら俺って王立学園の外に友達がいない・・・・・・・・・?
ナノちゃんは・・・・・・・・・いや、しかし・・・・・・・・・。

「休日とか寮に引き篭もってるからでしょ?」

「そりゃそうだが・・・・・・・・・あれ?声に出てたか?」

「うん。というかアカシアと顔見知りって何したの?確か特級犯罪者だよね」

「・・・・・・・・・」

しまった。
何口走ってんだ俺は。
ファルに誤魔化しながら説明した後、先程あげた選択肢の中から考える。
最有力候補なのがアレス、次いでペン太先生だ。
前者が一番無難に思えるが何よりアレスの部屋だ。
人が住める環境であればいいのだが・・・・・・・・・。
とにかくアレスの部屋を探すべく、ギルは寮を探索しはじめた。
ついでに言うとファルも知らないらしい。
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2-50 男の泣き所

王立学園の中で最も強い人物は誰か。
そう聞かれたら大多数の人間はガルマー先生と答えるだろう。
ガルマーが教師として指導する時、冒険者見習い達はその技術の高さに驚き尊敬するからだ。
技術力、判断力、身体能力、魔力。
それらを統計的に見てみると確かに王立学園で最強なのはガルマーで間違いないだろう。

「なのー」

が、ごく一部の人間───特に教師陣はこう答えるだろう。
知る人ぞ知る『世界樹の魔女』、トナ校長こそが王立・・・・・・・・・いや、存在最強であると。

「なのー」

こんなふうに団扇を片手にクーラー全開の部屋のベッドの上でゴロゴロしていても、最強なのだ。

「・・・・・・・・・だらしない」

「あ、キリア。どうしたの?」

「今はナノ」

「あ、キリアキリア!美味しいお饅頭をタクが買ってきたの!一緒に食べるの!」

「・・・・・・・・・」

まったく話を聞いていないトナにナノ───キリアは溜息を吐いた。
そしてふとトナはキリアのほうを凝視し

「あれ?どうしたの?なんだか顔色が悪いの」

「・・・・・・・・・ナガレ=ノクトンと遭遇した」

「あー・・・・・・・・・まだ苦手だったの」

「・・・・・・・・・」

「ナガレは生真面目でいい子なの」

「ありえない」

即答で否定するキリアにトナは苦笑いをながらクーラーを切る。
そしてベッドから降りて腕輪からあるものを取り出す。

「はいなの。これが氷・・・・・・・・・まぁだいぶ圧縮してて術式に治すには時間かかるの」

「・・・・・・・・・?エイボンは?」

「エイボンは何か美味しい気配がするとか言って一月前くらいに失踪したの」

「・・・・・・・・・相変わらず」

エイボンなら解凍、そして術式化なんて一日で出来るだろうがいないのなら仕方ない。
トナやキリアとて彼女の身勝手さは昔からよく知っているのだ。

「なの、次のNINO&NANOのライブのスケジュールなの」

「・・・・・・・・・」

キリアは腕輪経由で送信されるそのデータを確認し、頭の中で今後の予定を組み立てていく。

「それじゃあデートにいくの!」

「・・・・・・・・・職務は?」

「いいのいいの。そんなのタクとパールに任せとけば終わるの。
 今日は久々にちやほやされたい気分なの!」

そう言い放ったトナは自身に供給し続けていた魔力の一部をカットした。
するとそこには変身魔法が解除された彼女の姿が。

「・・・・・・・・・大騒ぎになる」

「大丈夫なの!NINO&NANOのゲリラライブにいくの!」

「・・・・・・・・・話を」

「さぁ出発なの!」

「・・・・・・・・・」

NINO&NANOで天真爛漫であるニノ。
実はトナの素顔であり、校長が副職なんてことを知っているのは極々一部の人間だけだったりする。





ギル=ノクトンは部屋のダンボールをあさっていた。
入学してから既に二ヶ月以上たつというのに全ての荷物はまだ部屋に出してない。
といってもギルが持ってきた私物は武器の手入れ道具だったり冒険者の必需品だったりするものばかりだ。
今日出された課題に必要な材料を見て「そういえば来る前買ったっけこれ」と思い出しダンボールをあさっているのだ。
腕輪に入れればいい話だったのだがこういう細かいものを取り出すのは少し技術がいるのだ。
そういえば昔母さんが四次元ポケットに手を入れてお目当ての道具がうんたらかんたら言ってたけどなんだったんだったんだろう。
とにかく腕輪というものは便利なようでいて実は魔法使い向けでもあるものだ。
なんせ格納領域の座標を決めて取り出したりするのには細かな魔力設定が必要で、
小道具を入れようものならそれこそ魔法を使うレベルでの繊細な作業が必要である。
腕輪が支給されはじめて数百年。
その間必需品となった腕輪は人々の魔法技術のレベルを格段に引き上げたがそれでも使い始め1年にも満たないものには難しいものだ。
ギルは一応食料袋と傷薬とバスターソードの領域を腕輪に設定しており、大雑把に操作しても取り出せるようにしてある。
・・・・・・・・・まぁその設定をしたのはファルだが。

とにかくだそのような理由で腕輪ではなくダンボールに入れて寮に送ったギルだが、その作業もファルに任せたのだ。
あれ?

──ファルに任せすぎのような・・・・・・・・・まぁいいか。

そしてその事件は起こった。





「な・・・・・・・・・」

お目当ての材料がないので別のダンボールを開けると、そこには絶句せざるを得ない代物が存在していた。
まさにこのダンボールはパンドラの箱。
開けてはならない、災厄が潜んでいた。

「・・・・・・・・・」

それはいわゆる成人未満お断りな本達。
そしてその傍にひっそりと、しかし確かな存在感を示している『Diary』と書かれた日記帳。
前者はとりあえず忘れることにして後者の表紙をめくってみることに。


はち月なな日すい曜日 はれ
きょうはさーかすをみにいった
ばひゅーんてなってぴょーんとはねてとってもたのしかったです
またいきたいです


「うおおおおおおお!?」

なにこの羞恥プレイ。
駄目だ、これを読むと間違いなく俺はダメージを食らう。
1ページから既に身体がかゆくてたまらない。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

何事もなかったかのようにその日記帳をダンボールに戻してガムテープも張りなおす。
さらにマジックペンを取り出して箱に『危険物』と書いてすっと端のほうに追い寄った。
そして腕輪を取り出して通話機能を呼び出す。
通話中という文字が腕輪の上に表示され、『sound only』というスクリーンと共に繋がった。

「ファル!なんで黒歴史を俺の箱にいれた?!」

『・・・・・・・・・意味はわからないけど、落ち着いて。何の話?』



少年説明中




「ということだ。俺の日記まで入れることないだろ?つうかなんで他の本も何で隠し場所知ってるんだ!?」

『いや、ベッドの下とかありきたりな場所で隠してるといわれても・・・・・・・・・』

「のおおおおう!?」

いやこんなことの為に通話したわけじゃなかった。
とりあえず本題を、と前置きしてからファルに聞いてみることにする。

『今日の課題で・・・・・・・・・ね』

「ああ。ファルなら分かるんじゃねぇのって思ってな」

『・・・・・・・・・?』

そう聞いた瞬間に何故か沈黙するファル。
なんで?
そう思ったのも束の間

『さっきから何か勘違いしてるみたいだけど、僕はギルの引越しに何の関与もしてないよ』

「・・・・・・・・・え?」

『君の母親が荷造りしてたっけ。・・・・・・・・・ああ、だからあの時お礼なんて言ったんだ。
 何もしてないのにいきなり感謝されたから何かと思ったけど、荷造りを僕がしたと思ってたんだね』

ギルにはその声はまったく届いてなかった。
男には泣いていいことがいくつか存在する。
これは泣いていいことのはずだ。

「もう・・・・・・・・・ゴールしていいよね?」

『・・・・・・・・・そうとうショックだったみたいだね』

まぁ僕にはよく分からないけど。
そういい残して通話はきれた。
正直これ以上話す余裕がなかったのでありがたいといえばありがたいのだが・・・・・・・・・
淡々と自分のベッドの下から取り出した青少年向けの本をダンボールに詰める母親の姿を想像して

「うわあああぁぁぁぁぁ!?」

絶叫しながらベッドの上でジタバタと暴れ始めた。

2-49 暗躍する者

ギル達は僕がファルだと思っているようだけど、我はファルじゃない。
確かに僕はファルなのだが正確に言うならばファルが我だと言ったほうが正しいだろう。
もちろんこれは時が来るまで教える気はないし、その機会は既に決まっている。
ならば僕からギルに話すことは何もない。
ただ・・・・・・・・・ただ僕は忠告だけはしてしまった。

「絶対にロロだけは好きになっちゃだめだよ」

その時のギルの顔に「何言ってんの?」と書いてあったが彼が意図を理解するのは一生なくていい。
本来僕は鑑賞することはあっても干渉だけはしてはいけない。
それも彼の運命を変えてしまうような干渉だけは絶対に。
いや、干渉しても意味がないといってもいい。
だというのに彼にその忠告をしてしまったのは何故だろうか。
こんなことをすれば主様が悲しむかもしれないことは分かっていたというのに。
・・・・・・・・・いや、このままギルがロロを好きになってしまってもそれは同じことだ。
ただギルに忠告をすれば僕は主様から嫌われてしまうかもしれないというデメリットがあるだけだ。
主様に嫌われる、そう思うだけで身体は震えが止まらなくなり、動悸が激しくなる。
きっと主様は許さない。
世界を愛していた主様は僕を怒る。
そう決まっている。
何かを引き止めるように、縋るように胸元の古ぼけた鍵を握り、考える。
僕が何故そんなリスクを冒してまでギルに肩入れをしたのか。
・・・・・・・・・友情だとでも言うのか?
僕が?
この僕がか?
ギルに友情を感じている?
馬鹿な。
そんなことがあるわけがない。
僕はギルを信用していない。
それどころか誰も信用していない。
あるのはただかつて主様が願った夢を叶える為においている周囲の人間だけ。
だから僕は・・・・・・・・・僕は・・・・・・・・・

「どうかしましたか?」

「・・・・・・・・・」

長い間、思考に入り込んでいたらしい。
気付けばジーナが心配そうに顔を覗き込んでいる。

「何でもない」

冷たく言い放ち、兵士達が囲う絨毯、その中央を堂々と歩く。
彼女のことは嫌いなわけではない。
僕のために努力しているのを否定する気はない。
だがそれと僕が彼女に好感を抱けるかという話は別問題だ。
何か言いたげに口を開いたジーナだが、それが言葉となることはなかった。

「久しぶりだね。今はファルと呼んだほうがいいかい?」

「構わない。それで」

兵士達がファルの一挙一動に警戒心を抱いているのを感じつつも不敵な態度を崩さず彼、クロウに言い放った。

「これで精鋭なの?僕なら一分・・・・・・・・・いや、40秒で全員片付けられる」

戦いに疎い一般人でも分かるほど濃厚な殺気がファルに突き刺さるが本人は何も感じてないかのように続けた。

「このままでは近い将来起こる聖戦に間に合わない」

「やれやれ・・・・・・・・・これでも軍事はだいぶ強化したんだよ?」

これ以上そっちに予算を回すと色々な方面から苦情が来る。
そうクロウが付け加えるがファルはしかめっ面で言った。

「前話した通り君が訓練教官をしてくれれば問題ないんだけどな」

「僕は予言の通りにする為にもギルに降り注ぐ災いに注意を向けなければならない。
 その為なら何だってしてるさ。この前だってアインヘリヤルを殺したはずだよ?」

「まったく君は・・・・・・・・・予言を回避するってことは考えないのかい?そもそも詳しい内よ・・・・・・・・・」

「それは言えない」

「・・・・・・・・・」

「ただこれが僕にとって最善の未来だ、と言っておく」

「なら君の言葉を信じるしかないね」

「僕は君を信じていない」

「違うね。君は誰も信じていない」

先程まで考えていたことをあっさりと言い放たれたファルは眉を顰めるも「間違ってはいないね」と言った。
だがさらに、とクロウは言葉を追加する。

「君自身さえも信じていない。ファルが信じているのは敬愛する主だけだね?」

「・・・・・・・・・そろそろ本題に入ろう」

「ちょっと旗色悪くなるとすぐ会話逸らすんだから・・・・・・・・・まぁいいよ。それで話というのは───氷が見付かった」





氷が見付かった。
つまりそれは保険が完成したということ。
話を聞いてみると、とある冒険者が聞いたこともないような世界の果てで見つけてきたらしい。
道理で私兵で探索させても見付からなかったわけだ。
まぁ見付かったのは喜ばしいことではある・・・・・・・・・が、問題は見つけたきた冒険者の名前だ。
ナガレ=ノクトン、僕にとってこの世界で最も厄介といえる冒険者だ。
出来るなら会いたくない。

「ということで僕はこれから身を隠すから」

「え?ファルさん?」

ナガレが帰ってきている。
その事はファルが数少ない恐怖を感じる相手が今、身近にいる。
なんとしても逃げなければ。
となると急いでジュノー行きの飛行船・・・・・・・・・いや、あそこ(・・・)に行くほうが確実だろう。
何かを言いたげなジーナを無視して頭の中で逃走ルートをいくつも思い描く。
と、考えていると肩に手を置かれる。
なんだ、ジーナも行くの?
そう聞こうとして振り向くとそこには

「ほう。このナガレ様から逃げようなんて・・・・・・・・・調教が足りなかったか?」

不敵に笑う男、ナガレ=ノクトンの姿が。

「ぎゃああああ!?肩がっ!?肩がとけてるっ!」

「HAHAHAHA」

ナガレが乗せていたファルの肩から光の粒子のようなものが飛び、どんどん削られていっている。
とっさに持っていた剣の柄でその手を払い、距離をとる。

「あうあうあうあうあうあう」

「ふ、ファルさん?大丈夫ですか?というかこの方はいったい?」

「おや、ジーナちゃんか」

「はい?」

呼び止められたその声にジーナは過去の記憶を検索するが、このような人物に心当たりはない。
というかこのファルの怯えようはなんなんだろうか。

「久しぶりだな。といってもこんなに小さかった頃だからな。覚えてないだろ」

親指と人差し指の隙間で表現するナガレ。
そんな小さい人物はいません、と言いたいが先程のファルの反応から迂闊なことはいえなかった。

「ま、覚えなくてもいいが一応自己紹介をしておこうか」

ナガレはどこか彼に似た笑み浮かべながら

「ナガレ=ノクトン。世界を旅する渡り神の一柱だ。あ、こいつとは昔馴染みだ」

「ひぅっ!?」

踏まれながらこいつ、と言われているのは廊下の隅で可哀相なほど震えているファルだった。
助けたかったが、こういったファルも新鮮だったので結局助けなかったジーナ。
とりあえず、次は助けるから許してくださいと自己弁護しておいた。







ナガレがそう自己紹介をし、王城から去っていくとファルは立ち上がった。

「あの?」

「・・・・・・・・・あれは覚えなくていい」

「踏まれてたことですか?それともナガレさんのことですか?」

「どっちもだよ。だいたいもう会うことはないだろうし」

「いったいどなたなんですか?それにノクトンって・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・ナガレはギルとロロの先祖だよ」

「はい?」

「もう人間やめちゃってるから数百年は生きてるけどね・・・・・・・・・前に会ったのは10年前くらいだっけ」

「はぁ」

「あの装備を見る限り、そろそろ別の世界に行くみたいだからたぶんもう会わないだろうね」

2-48 似非神父と不幸少女

昨日の敵は今日の友。
そんな昔の言葉を思い浮かべながら、ギルは困惑していた。

「おかわりはいいのかね?成長期なのだから、食べないと大きくなれんぞ」

「・・・・・・・・・はぁ」

そこには似非神父こと、アカシアがいた。
こいつって指名手配じゃなかったっけ?
こんな堂々と居酒屋で食べてて平気なのか?
司祭服きてるって、隠す気あんのかこいつ?
そもそもなんで誰もつっこまないんだ?
つっこみ待ちか?
俺のつっこみ待ちなのか?

「・・・・・・・・・あの」

「なんだね少年?」

「何してんですか?」

「居酒屋にいてすることなど一つしかあるまい?」

アカシアが食べている焼き鳥の傍においてあるのはビール瓶。
神父って飲酒禁止じゃなかたっけ?
先日の戦いはいったいなんだったんだと苦悩する。
今日は日曜日。
王立学園が休日なのでファルがいないので外食を決めたのが間違いだったのかもしれない。
なんであの時寮の食堂を利用しないで中央通りに出かけたのか、1時間前の自分の問い詰めたい。
そしてこんな時に限ってなんで相席なんだ。

「さて、私はそろそろ失礼するかな」

昼時にも関わらず酒を飲んでいたアカシアはいつのまに食べ終えたのか、席を立つアカシア。
生返事を返してギルはすっかり冷めたスープを口に運ぶ。
ああ、普通の料理って素晴らしい。
って

「待てアカシア!」

店から出て行こうとしていたアカシアを呼び止めるギル。
聞きたいことがあったのだ。

「なにかね?」

「ナノちゃんはどうしたんだ?」

そう、彼女の行方はまったくつかめない。
もともと接点が多い彼女ではないが、男として、冒険者として、友人としても見過ごせない。

「天の御使いのことかね?彼女なら無事ははずだ」

「・・・・・・・・・」

「本当さ。あの後魔法少女とやらが来てね。それも鬼畜魔法少女だ」

・・・・・・・・・はい?

「・・・・・・・・・鬼畜魔法少女ですか」

「そうさ。君も気をつけたまえ。魔法少女はこの世の理を破壊する」

そういい残してアカシアは今度こそ居酒屋を出て行った。
色々とつっこみたい衝動にかられたがそこは我慢することにする。
一度敵対・・・・・・・・・というか犯罪者のアカシアだが、中身は案外人間味のある奴なのかもしれない。






どうでもいいイベントが発生し、このまま寮に帰るか露店をまわるかをギルは迷いながらベンチに腰をかけていた。
ふと自身の腕輪のメールシステムを呼び出し、受信メッセージを確かめる。
彼女、ナノへのメールは依然として帰ってこない。
アカシアの話を信じるならばナノは無事はなずだが・・・・・・・・・もしかして嫌われているのだろうか。
いや、それならアカシアと会った日、呼び出しに応じなかったはずだ。
となるとアカシアが嘘をついている可能性だが、これはおそらくだが低い。
あの時アカシアが気に掛けていたのはナノ一人で、自分とロロのことなんて道端の雑草くらいにしか思っていなかっただろう。
実際居酒屋でも相席で座った時、数分くらいしてから気付かれたもんだ。
出来ればそのまま気付かないでいてくれればよかったのに。

「ありゃ?ギルっち?」

声をかけられた、その声に反射的に振り返り見つけたのは黒いロングの髪に黒い目を持つクラスメイトのティアマト。
ラフな私服姿で・・・・・・・・・

「その胸についたアイスはなんだ」

「へ?ああ、さっきアイス食べながら歩いてたらさ、ちょうど柄の悪い人とぶつかっちゃったのよ」

「その真っ黒になった右腕はなんだ」

「家の鍵が焼却炉に入っちゃってさ。火を消してから中につっこんだのよ」

「・・・・・・・・・その頬についたキスマークはなんだ」

「いやぁ、間違ってオカマバーに入っちゃってさ。すぐ帰ろうとしたんだけど異様に気に入られちゃったのよ」

ファーストキスは守り抜いた。
そう誇らしげに胸を張るティアマトに思わず涙をこらえるギル。
相変わらずの不幸ぶりだった。
戦闘訓練や演習の時は不幸が襲い掛からないのに彼女の場合、実生活において不幸になるようだ。
どうにかしてやりたいが、かつてどうにかしようとして自身も不幸に見舞われたのは記憶に真新しい。
一緒に不幸体質を治そうとしたメンバーの中で特に被害を被ったジーナは数日間不登校で部屋に引き篭もったくらいだった。
我がクラスの結論は”そっとしておこう”ということになった。

「ところでさっきからスルーしてたんだが」

「なに?」

「その子・・・・・・・・・なんか黄色くなってるけど、ナノちゃんだよな?」

言うべきか言わざるべきか迷ったのだが、とうとう聞いてしまった。
ジーナの隣に立っているのはティアマトと同じく黒い髪の持ち主、『であった』ナノの姿が。
というか知り合いなのだろうか。
超ロングで立っているにも関わらず地面すれすれにまで届いているかつての艶やかな髪は黄色に変色していた。
いや、黄色くなっているのは髪だけではない。
服も黄色で統一されている。
ツンとにおってくるこの匂い。

「ペンキでもかけられたのか?」

「・・・・・・・・・」

無言で頷くナノ。
相変わらず表情が乏しいがどこか哀愁を漂わせているのは見間違いじゃないだろう。

「いやぁ、ごめんね?お詫びに昼食奢ってあげるからさ。まぁその前に銭湯だけど」

「(フルフル)」

「さてギルっち、そういうわけだから」

「(ウルウル)」

なの の なみだめ!
こうかはばつぐんだ!

「な、なぁティアマト。ほら、お詫びなんていらないんじゃないか?」

「何言ってるのさギルっち。ナノっちには迷惑かけたんだから何かするのは当たり前でしょ?」

「・・・・・・・・・ソウデスネー」

フルフルと振っていた首の速度が2倍程に上がる。
その光景に思わず目をそむけるギル。

「・・・・・・・・・」

ナノは失望したと言わんばかりに目に涙を溜めながらも睨みつけており、ギルは冷や汗を流した。
うん、これでフラグはもう立たないだろうな。
混乱しすぎて妙なことを考えるギルだが、背中はしっかりとティアマトに向け、
足は『ガ○ダム、大地に立つ』とサブタイトルをつけてもいいくらい前へ前へと地面を踏み進んでいる。

──あれ、そういえばナノちゃんって特級冒険者だっけ

・・・・・・・・・恋愛フラグを潰したかわりに死亡フラグがたったんじゃないだろうかこれ。

2-47 ツンデレ+料理下手=致死性一歩手前の毒

ロロ=ノクトンは乙女である。
毎朝毎朝幼馴染の男の子によって起こされ、料理がまったく出来ないが、それでも乙女である。
幼馴染のギルが聞いたら一笑し、蹴り倒されるだろうが、乙女である。
そんなロロの最近の日課はファルに料理を教わることだった。
というのもたしか入学式くらいの時期がきっかけで料理を覚え始めたのだが、これがまた難関だった。
まずレシピを渡されてチャーハンを作らされた。
最初は目玉焼きが課題だったのだが、いくらなんでも馬鹿にしすぎだとロロは怒った。
そして作られたチャーハン。
色は何故か銀色に鈍く輝いており、謎の発光現象がおきていてもチャーハンである。
ちょうどファルの部屋にいたジーナもこの時ばかりは顔を引き攣らせていた。
ギルを呼んで食べさせてみたが、食べた瞬間わけの分からないことを叫んでファルにル○ンダイブしたのは何だったんだろう。
ちなみにその後ジーナの暴徒鎮圧用弾丸でノックアウトされたギルの口にファルが無理矢理チャーハン?を詰め込んでいた。
よしこれで完璧だ、ロロはそう思ったがなんでか作る料理はチャーハンから目玉焼きに難易度が急降下。
ファルに聞いてみたが基礎が大事と何度も繰り返すばかりで、納得は出来ないが師匠の言うことなんだから無理矢理納得はしておいた。

「これで完成っと」

そんなロロが今、謎の虹色で独りでに蠢く料理を皿に盛り付けていた。
盛り付ける時に少々暴れて手こずったが、力技で黙らせた。
ふとベッドのほうを見てみると、そこには布団をかぶっていかにも「私、無関係です」とアピールするジーナの姿が。
ファルは既にギルの部屋に直行しており、今頃縄で縛ってつれてくる頃だろう。
ファルが言うには幼馴染の手料理を食べるのが恥ずかしいだけだという。
そんなこと言われればロロとて恥ずかしく、ついギルとファルに照れ隠しの回し蹴りを放ってしまうのも、たまにあることだ。

「頼む!見逃してくれファル!」

「・・・・・・・・・」

そんなギルの言葉にファルはまるで絶望的な戦況の中、
少しでも敵に損害を与えるために特攻する戦士を見送るかのような視線を送るだけだ。

「はい、あーん」

顔が真っ赤に火照るのを感じつつ盛り付けた料理をスプーンにとり、直接ギルの口元へと持っていく。
本来こんなことしてやる義理はないのだが、ギルは今手足を縛られている。
もちろん解いてやるのが一番なのだがそんなことをすれば恥ずかしいからと逃げていくに違いない。
イヤイヤとギルが顔を真っ青にしながら命乞いの言葉を吐くが、ファルは手遅れですと言わんばかりに首を振る。

「俺達親友だろ!?」

「・・・・・・・・・残念ですが」

「ファ・・・・・・・・・」

ル、そう言おうとして大きく口を開けた瞬間、放り込まれる物体X。
それはまるで宇宙の神秘を体現したかのような、ニブルヘイムとムスペルヘイムが合体したかのような。
神秘。
神秘。
神秘。

「&”@-$#&%!?」

言葉にならない声を叫びながら物体Xを吐き出そうとするギル。
しかしそれをロロに察知される前にファルが顎を無理矢理押さえつける。

「・・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・!・・・・・・・・・」

最初は手足が縛られながらも打ち上げられた魚のように激しく動いていたギルだが、それも数秒だけ。
今やそこにいるのは味覚を通して脳を得たいの知れない何かで侵食された哀れな犠牲者が一人。
白目を向いているがファルとジーナは見なかったことにして使った鍋を片付け始めた。
ロロは思った。
今日も美味しく作れたみたいだ、と。





最近日課となりつつあるSAN値がチェックされる料理を食わされたギルは、胃薬を飲んで自室で横たわっていた。
出来ることなら美味しく頂いてやりたいが、あれはどんな調味料を足しても食べたいと思えない代物だった。
思えばロロが料理を作り始めたのは王立学園に入学してからしばらくのことだった。
最初こそ「何か始めたな」と他人事のように思っていた。
それからしばらくの間ファルとジーナが哀れみの篭った目で見てくることに疑問を感じていたが、その時気付くべきだった。

「・・・・・・・・・」

ロロの料理は一言でいうなら『錬金術』である。
先程の料理だって原型すら留めていないが実は目玉焼きである。
いったい何をどう調理したら卵があの謎の物体Xになるのだろうか。
一度だけファルに聞いてみたことがあるが、心底不思議そうに首を傾げていたのが印象的だった。
ファル曰く

「僕がちゃんと隣で見てるんだけど、気付けば謎の生命体になってたり、謎の現象を起こす物体になってたりするんだよね。
 一度も目を閉じないで見てみても、気付いたら変化してるんだ。僕には理解できない現象だったよ」

とのことらしい。
ただ不味いだけならいいのだが、最初の日に作ったチャーハン?は何故か洗脳効果のようなものがあった。
細かいところは覚えていないのだが、ファルに対して抗いようのないほどの欲情を感じてしまったのだけは覚えている。
ちなみにあの後かなり荒っぽかったが止めてくれたジーナに涙しながら感謝した。
その晩、胸焼けが一晩中止まらず眠れぬ夜を過ごしたのは今となっては懐かしい出来事だ。
なんせ今はロロの料理猛毒を食べても1時間後には必ず起き上がるからだ。
身体がロロの料理猛毒に対して抵抗力を身につけたということだろうが、素直に喜べない。

「というか何で料理なんてしてるんだ・・・・・・・・・?」

ロロが料理を始めた理由を本人に聞いてみるととび蹴りが飛んでくるし、ファルに聞いてみると苦笑いを返される。
ジーナにいたっては暴言が返ってくる。
どうにかしないと死ぬ。
胃袋的に。
そう思っていたのも初期段階だけで、今となって・・・・・・・・・いや、よそう。
そのせいかその辺に関して問い詰めようという気が薄れてきているのは確かだ。
だが原因を突き止め、究明しなくてはこの無限地獄が終わらない。
え?ロロに直接言えって?
無茶言うな。
負けず嫌いのあいつにそんなこと言えばより悪化するに違いない。
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